第46話 ドライマンゴーとイカ飯
僕は昼食を買いに屋台を物色していた。
屋台は手軽に食事が買えるので、冒険者に人気らしい。そういう理由もあってか、冒険者ギルドがある通りには結構な数の屋台が軒を連ねていた。
片手間に摘まめる果物から、腹を程好く満たしてくれる焼き物の店まで。
僕も、冒険者ではないが屋台にはそこそこ世話になっている。
さて、何を食べようか。
「みゃあ、みゃあ」
左手に抱いた子竜が僕の顔を見て鳴いている。
……周囲の人たちの視線が浴びせられるように注がれているのが肌で分かる。
小さくても竜だもんな。注目を集めない方がおかしい。
なるべく知らぬふりをして、僕はドライフルーツを売っている屋台の前で足を止めた。
……竜って、果物とか食べるのかな。
というか、生まれたばかりで食事するのかな。こいつ。
僕は子竜の背中をぽんぽんと叩いて、棚に並ぶドライフルーツに近付けてみた。
「食べるか?」
子竜がドライフルーツの方を向いた。
バナナ、マンゴー、パイナップル……素朴な色彩が並ぶ棚をじっと見つめて、瞼をぱちりとさせる。
お、手を伸ばした。
食べたいかどうかはさておき、興味はあるようだ。
僕は屋台のお姉さんに頼んで、マンゴーを少しばかり包んでもらった。
「ほら」
早速包みから一切れ取り出して、子竜にあげてみる。
子竜は小さな手でマンゴーを掴むと、鼻を近付けてすんすんと匂いを嗅ぎ始めた。
ひょっとして匂いにつられただけか?
すんすん、すんすん。
ぱくり。
食べた。
もちゃもちゃと口を一生懸命動かして、マンゴーを咀嚼する子竜。
……正直に言おう。可愛い。
僕は動物にはあまり興味がない方だが、これにはやられた。
自分の腕の中で、小さな口を懸命に動かして食事をしているのだ。これを見て何とも思わないはずがないじゃないか。
子竜はあっという間にマンゴーを平らげ、顔を上げて僕を見た。
目が合った瞬間、みゃあと小さく鳴き声を発する。
「まだ食べるのか?」
包みからもう一切れ取り出して、子竜に渡す。
子竜はマンゴーを両手で器用に掴んで、かぶりついた。
もちゃもちゃ、くちゃくちゃ。
すっかりマンゴーが気に入った様子だ。一生懸命食べている。
竜って肉食のイメージがあったけど、案外雑食なのかもしれない。
僕は食事に夢中の子竜を抱き直して、ゆっくりと歩みを再開した。
この子にばかり気を取られていて、自分の分の食事を忘れたなんてことになったら笑うに笑えない。
昼休憩の時間は無限ではないのだし。
「イカ飯だよー。作りたてのあつあつだよー」
横手から掛けられた声と匂いにつられて、足を止める。
イカ飯か。あの独特の甘さがいいんだよね。
いつも鉄板焼とか焼き物ばかりだから、たまには蒸し物にするのもいいかな。
イカ飯なら片手で食べられるしね。
「すみません。イカ飯ひとつ」
「毎度ありー」
屋台のお兄さんは笑顔で答えて、串に刺さったイカ飯を僕に渡してくれた。
代金を支払い、イカ飯を受け取る。
本当にあつあつだ。湯気が立っている。
火傷しないように、控え目に頬張る。
これこれ。このタレの甘さがイカ飯って感じがする。
米ももちっとしていて甘い。タレをよく吸っているな。
ふと視線を感じて目を左腕の中に向けると、子竜と目が合った。
子竜の灰色の瞳に、イカ飯が映っているのが見える。
……食べたいのかな。
僕はイカの耳を小さく噛み切って、子竜の目の前にぶら下げた。
手を伸ばす子竜。
イカの耳を掴んで、匂いを嗅ぎ、ぱくり。
調味料の味がしてても食べるんだなぁ。
まあ、お陰で食事の問題が片付いて助かったけど。
僕はイカ飯を頬張りながら、冒険者ギルドに向けて来た道を戻り始めた。
子竜はイカが固かったのか、まだ口をあぐあぐと動かしている。
ドライフルーツはまだ残っているし、仕事中に強請られたら少しずつあげておけばいいだろう。
夕方まで、何とか世話の方法が見つかって良かったよ。




