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第45話 竜の卵

「ん~」

 珍しくヘンゼルさんが唸り声を発している。

 鑑定品を持って2階から降りてきた僕は、ギルドカウンターにいる彼に声を掛けた。

「どうしたんですか? 唸ったりして」

「ちょっとねぇ」

 ふう、と溜め息をついて、ヘンゼルさんは僕をカウンターに呼んだ。

 訝しげに彼の元に歩み寄る僕に、彼は手にしていたそれを見せた。

「これよ」

 それは、人間の顔ほどの大きさをした卵だった。

 色は白と灰色の中間くらい。つるりとした表面が、陶器の器のようだ。

 鳥の卵……にしては、若干大きい気がする。

「何ですか、それ」

「竜の卵よ」

 何でも、現在解体している最中の竜の腹の中から出てきたそうだ。

 竜の解体……一筋縄ではいかないと思ってたけど、それはまたとんでもないものが出てきたな。

 竜は、捨てる部分がないと言われている。皮や翼は鎧の素材に、爪や牙は武器の素材に、肝や血液は錬金薬の素材になる魔物なのである。

 竜の解体依頼は時々入るが、卵が出てきたのは初めてのことだ。

 卵も何かの素材になるのか? それは分からない。

 僕は鑑定品をカウンターに置いて、ヘンゼルさんから卵を受け取った。

 ずしっとした重みが掌に伝わってくる。

 随分と中身が詰まってる卵だなぁ。

「鑑定眼」

 試しに、僕は卵に鑑定魔法を掛けてみた。


『【ホワイトドラゴンの卵】

 ホワイトドラゴンが産んだ卵。有精卵』


 ……そうだよね。卵だもん、間違ってない説明だと思うよ。

 僕はヘンゼルさんに卵を返却した。

「買い取るんですか?」

「無精卵なら調理ギルドが引き取ってくれるからそうするんだけど……多分これ、有精卵よね。有精卵だとちょっとねぇ……」

 魔物の卵は見つけたら潰すのが普通だ。放っておくと魔物が生まれるからである。

 とはいえ、解体途中の竜の腹から出てきた卵なので、依頼者の許可なく処分するのもどうかとヘンゼルさんは思っているらしい。

 潰すのが普通なら、別に僕たちが処分しても問題ないとは思うんだけどね。

 と。

 僕たちが見つめている中、卵がことりと動いた。

 ぱりっと卵の天頂部に罅が入り、白い鼻が顔を出す。

「あら」

「…………」

 ぱりっ。ぱりぱりっ。

 卵がどんどん罅割れて、真っ白な身体が姿を現す。

 爪を生やした小さな手に、くるりと丸まった長い尻尾。

 体長は20センチほどだろう。折り畳んでいる翼を広げたらもっと大きく見えるだろうが。

 灰色の水晶玉のような瞳が、僕をじっと見つめている。

 それはヘンゼルさんの手の中で、ゆっくりと全身を伸ばした。

「……生まれましたね」

「どうしましょ」

 子竜はよたよたとヘンゼルさんの手の上から降りて、僕の方へと向かってきた。

 みゃあ、と子猫のような声で鳴いた。見かけによらず可愛い声だ。

 みゃあ、みゃあと繰り返し鳴く子竜の様子を見ていたヘンゼルさんが、あらあらと僕の方に視線を移す。

「イオちゃん、気に入られちゃったんじゃないの? この子、貴方のことじっと見てるわよ」

「へ?」

 僕は目を瞬かせた。

 僕、目の前にいただけなんだけど。

 これは……あれか。産まれたばかりの動物が動くものを母親だと思って付いて行くやつか。

 けど、竜だしなぁ……竜に動物の常識が当てはまるものなんだろうか。

 試しに、子竜を抱き上げてみる。

 子竜は嫌がる様子はない。それどころか、鼻先を僕の掌に擦り付けている。

 犬とか猫と一緒だ。これは甘えている時にやる動作だ。

 どうしよう。僕、竜なんて世話できないぞ。

 そもそも魔物を育てたりして良いのだろうか。

 世の中には魔物を使役する魔物使いテイマーという職業もあるにはあるが、それはそれ、これはこれである。

「……どうするんですか? これ」

「うーん……」

 ヘンゼルさんは顎に手を当てた。

「解体依頼した人は夕方頃に来る予定なのよね。それまではうちで預かる形になるわ。その後の処遇は、その時に話して決める形になると思うの」

 僕の手に鼻を擦り付けている子竜を見つめて、

「イオちゃん、悪いけどその時まで預かっててもらえる? その子、イオちゃんに懐いてるみたいだから」

「……分かりました」

 僕は子竜をカウンターの上に下ろした。

 すると、途端に子竜が鳴き始めた。まるで下ろしたことに文句を言っているかのように。

 ……駄目だこりゃ。離れられそうにないぞ。

 周囲の冒険者たちが注目してくるので、僕は仕方なしに子竜を腕の中に抱き上げた。

 夕方までか……料亭は確かペット同伴駄目のはずだし、昼食は屋台料理で済ませることになりそうだ。

 世話もしなきゃ駄目だろうし、こいつが何を食べるのか調べないと。

 そんな僕の考えなど露知らず。子竜はくるると喉を鳴らして僕の腕の中で寛いでいる。

 何だか大変なことになっちゃったなぁ。

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