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第43話 招かれざる客

 舞台に何体ものトルソーが並んでいる。

 それらは皆異なる衣裳を身に着けており、魔光に照らされて存在を誇示していた。

 魔光とは、魔法で生み出した光のことだ。燭台よりも白く明るい光を作り出す魔光は、舞台栄えするのでこういう場所でよく使われるのだ。

 僕は発表会の準備が着々と進んでいる舞台を見つめながら、袖の方に歩いていった。

 ナンナさんはスタッフと話をしながら、トルソーを並べていた。

 自分の身長と同じくらいの高さのあるそれを若干引き摺りながら等間隔で舞台に配置し、衣裳を手早く着せていく。

 その手際の良さは、普段のおっとりした様子からは想像も付かないくらいにてきぱきとしたものだった。

 これぞまさに仕事をする職人って感じがする。格好良いよナンナさん。

「ええっと……後はぁ……」

 ナンナさんの視線が、トルソーから僕の方へと向いた。

「あ、イオさぁん。着替え終わりましたかぁ」

「はい」

 僕は舞台に上がった。

 魔光が目に眩しい。少しずつ慣らさないと立ち眩みを起こしそうだ。

「イオさんが立つのは、舞台のあの辺りですぅ」

 ナンナさんは舞台のある位置を指差した。

 あそこって……舞台のど真ん中じゃないか。

「右手を腰に当てて、こんな感じで立っていてほしいんですぅ」

 肩幅に足を開き、右手を腰に当てたポーズを取るナンナさん。

 それくらいのポーズなら、僕でも簡単にできそうだけど……

 大勢が注目している中でやるんでしょ? 緊張して身体が固くなりそうだよ。

 僕は座席の方に目を向けた。

 その直後に。


「この劇場は俺たちが占拠した! てめぇら大人しくしろ!」


 罵声が響き渡った。

 あちこちで悲鳴が上がり、がしゃんと何かを倒したような物音が立て続けに起こる。

 呆気に取られる僕のすぐ傍で、

「きゃあ!」

 ナンナさんの悲鳴。

 振り向くと、傷だらけの鎧を纏った厳つい顔の男が、ナンナさんを捕まえて抜き身の剣を突きつけている様が目に飛び込んできた。

「逆らうとこいつの命はねぇぞ!」

 光を浴びて輝く刃に、ナンナさんは息を飲む。

 僕は男の仲間と思わしき髭面の男に追い立てられ、舞台を降りた。

 ホールの出入口に2人。座席に3人。舞台に2人。

 ぱっと確認した感じ、此処にいる男の仲間はそれだけだ。

 皆が武装している。迂闊に逆らうと危険だということは分かる。

 こいつらは、一体何が目的でこの劇場を占拠したんだ?

 僕が訝っていると、ナンナさんを捕らえた男が大声で言った。

「いいか! 此処にある服は全部貰っていく! 逆らったら殺すからな!」

 ──目的は服?

 盗品売買目的の盗賊団か、こいつら?

「おい、そこの! 服を運び出せ! 妙な真似したらこいつを殺す、分かってるだろうな!」

 男は近くにいたスタッフを脅し、舞台の上に飾られている服を運ばせ始めた。

「……何とか、彼女を助けたいものだが」

 僕と一緒に追い立てられていた外套姿の男が、小声で僕に言った。

 はて、何処かで見たことのある顔だが……

「あの武器を取り上げることができれば、彼女を救うことができるのだが……」

「…………」

 僕はナンナさんを捕らえている男に注目した。

 あの武器を手放させる。どうやって?

 僕が暴れたところで、向こうからしたら何とも思わないだろう。逆に下手なことをすればナンナさんに危険が及ぶ。

 そもそも、僕にはそんな度胸などない。

 僕ができることといえば、遠くから鑑定魔法を飛ばすことくらいで──

 ──魔法?

 あ、と僕は小声を漏らした。

 上手くいくかどうかは分からないけど……試せることがひとつだけあった。

 すぅ、とゆっくり息を吸う。

 標的をしっかりと見据え、僕はこっそりと魔法を放った。

「コンプレッション」

 そう、圧縮魔法だ。

 これで、あの武器を縮めてしまえば──

「……?」

 男が眉を顰めて得物を見る。

 ナンナさんに突きつけていた剣が、彼の目の前でみるみるうちに小さくなっていった。

「……何だこりゃ!? 剣が縮んで……!?」

「今だ!」

 頓狂な声と、張りのある声が同時に男たちの口から発せられる。

 座席のあちこちから立ち上がり、武装集団に向かっていく外套姿の男たち。

 僕の隣にいた男は、ナンナさん目指して駆け出していった。

 静まり返っていた劇場は、一瞬にして戦場と化したのだった。

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