第42話 会場入り
どんよりと厚ぼったい雲が天を覆っている。
今のところ雨は降っていないが、降るのは時間の問題だろう。今日は朝からそんな天気だった。
「おはようございます」
僕が裁縫ギルドに到着した時には、既にナンナさんは出立の準備を終えていた。
大きな鞄に、木箱がふたつ。木箱には張り紙がしてあり、出展作品と走り書きがしてあるのがちらりと見えた。
一体どれだけの量の服を発表会に持っていくつもりなのだろう。
「おはようございますぅ」
ナンナさんは普段のエプロン姿ではなく、淡いレモン色のドレスを身に纏っていた。
髪も三つ編みではなく下ろしているので、随分と大人びて見える。
「そろそろ馬車が到着する頃ですぅ。忘れ物はありませんよねぇ?」
「大丈夫です」
僕は肩に下げている鞄を軽く叩きながら答えた。
僕の荷物はあってないようなものだ。僕が着る衣裳はナンナさんが持っているし、僕個人が用意するものといえば眼鏡くらいのものなのだから。
「到着しましたらぁ、控え室の方で着替えて頂きますぅ。イオさんが着替えてる間に、必要な準備はこちらで済ませますのでぇ」
「分かりました」
通りの向こうから、馬車が走ってきた。
いよいよか。緊張するなぁ。
ナンナさんはにこりと笑って、僕の腕にそっと触れた。
「イオさんは普段通りにして頂いて結構ですよぉ。リラックスしていきましょうねぇ」
街外れにある劇場。そこが、発表会の会場だった。
観客なのか関係者なのかは分からないが、多くの人で会場は賑わっていた。
到着して馬車から荷物を降ろし、ナンナさんは受付へ。
そのまま待っていると、会場のスタッフと思わしき男が数名やって来て、木箱を建物の中へと運んでいった。
「お待たせしましたぁ」
小走りでこちらに戻ってくるナンナさん。
「控え室は会場に入って左の通路を進んだところにありますぅ。早速行きましょうー」
会場の中は、流石劇場というだけあって豪華な造りをしていた。
入口の両脇を固めるように立っている像は獅子だろうか、後ろ足で立ち上がった動物を象った像が正面階段をじっと見つめている。
あちらに進んだ先が、発表会を行うホールのようだ。
僕たちは左右に伸びている小さな通路を左に曲がり、進んでいく。
突き当たりにドアがあった。『控え室』と書かれた札が斜めに吊り下げられている。
ドアを開くと、先程スタッフが運んでいった木箱が僕たちを出迎えた。
ナンナさんはまっすぐ木箱に向かって歩いていき、蓋を開いて中身を漁り始めた。
「イオさんが着る衣裳は……あった、ありましたぁ」
衣裳を手に戻ってきた彼女は、僕にそれを手渡した。
「では、着替えをお願いしますぅ。着替え終わりましたらぁ、ホールの方に来て下さいねぇ」
彼女は鞄を床の適当な場所に置くと、木箱を抱えてよろよろと部屋を出て行った。
……途中で転びそうな雰囲気だけど、大丈夫かな。あれ。
とりあえず、着替えるか。
僕は入口のドアを閉めて、肩に掛けていた鞄を下ろした。




