第4話 鑑定士はつらいよ
一時期、僕にも冒険者になろうと夢に思っていた頃がある。
だが、すぐに諦めた。自分にはそんな才能などまるでないことが鑑定の結果分かったからだ。
……自分の鑑定で自分の夢を壊すことになるとは思ってもいなかったよ、うん。
その後、鑑定魔法が使えることを売りにしてこの冒険者ギルドに就職したのだが──
そんな冒険者適性ゼロの僕が、ダンジョンに潜る?
無理でしょ絶対。ラーシュさんたちの足引っ張ることにしかならんと思うよ。
体力ないし。運動苦手だし。
魔物に襲われて右往左往する未来しか見えないよこれ。
「いやいや、無理ですよ僕なんか。ダンジョンに入るって」
「魔物との戦闘になっても、私たちでガードしますので。何とか引き受けて頂けないでしょうか?」
ラーシュさんがずいっとこちらに身を乗り出してくる。
うわ、目が本気だ。力入ってる。
「他に頼める人がいないんです。どうか」
「いいじゃないのイオちゃん。引き受けてあげたら」
カウンターの方から聞こえてくるヘンゼルさんの声。
全くもう、他人事だと思って。
「イオちゃんが冒険者デビューするなんて。裁縫ギルドにお願いして旅装束を仕立ててもらわないとね」
「いやいやヘンゼルさん、僕、行くなんて一言も言ってませんからね?」
勝手に話を進めないで下さい。
「お願いしますイオさん。他に当てがないんです、此処で断られたら私たちはどうすれば」
僕の手を握り締めて懇願するラーシュさん。
……あの、手、痛いです。握り締めすぎです。
必死なのは分かるけど、これは力入りすぎでしょう。
「ちゃんと謝礼はお支払いします。探索に必要な道具や食事はこちらで用意しますので」
「良かったじゃないのイオちゃん。至れり尽くせりじゃない」
「だからヘンゼルさん、僕は行くとは……」
「──────」
「────」
「それでは、3日後にお迎えに参りますので。宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げて去っていくラーシュさんを、僕はギルドの玄関口に立って見送った。
……結局、あれから。
ラーシュさんの必死の説得(?)に押される形で、僕は依頼を受けることになってしまったのだった。
生まれてこの方ダンジョンなどに足を運んだことのない僕が、何の前情報もないダンジョンに赴くことになるなんて。
不安と緊張で胃が痛むよ。
「イオちゃん、裁縫ギルドの方にはアタシから話を通しておくから」
ヘンゼルさんは何でそんなに嬉しそうなんだろう。
ずれた眼鏡の位置を正しながら、僕はギルドに入った。
時間のせいだろうか。ラーシュさんが来た時は誰もいなかったギルドの中は、今はそこそこの数の冒険者で賑わっている。
……決まったことでいつまでもぶつぶつ言っていられない。気持ちを切り替えないと。
僕は自分の頬をぱしんと叩いて、仕事が待つ作業場に戻ったのだった。