第35話 初心者パーティ、出陣
この服を着るのも3回目か。
旅装束に身を包み、剣を携えた僕は街の入口でユーリ君たちが来るのを待っていた。
この格好は……念のために準備したものだ。
今回魔物を狩るのはユーリ君たちだが、何らかの拍子で魔物がこっちに来ないとも限らない。
身を守る手段は、最低でもひとつは用意しておくべきだと思うのだ。
僕の下手くそな剣技で魔物をどうにかできるとは思えないのだが、一応というやつである。
「イオさん!」
通りの向こうから元気良く駆けて来る少年少女の姿。
やる気に満ち溢れた顔をした2人は、到着するなり各々の得物を手に取った。
ユーリ君は先端が丸くカーブした木製の杖を。
コニアさんは薄刃の両刃剣を。
気合が入ってるなあ。
「宜しくお願いします!」
「イオさん、魔道士だったんですか?」
僕の姿を見るなり尋ねてくるコニアさん。
ああ、やっぱりそう見えるのね。
僕は苦笑して服の裾を指で摘まんだ。
「僕ができるのは鑑定だけですよ。この服は仕事のために裁縫ギルドで特別に仕立ててもらったものなんです」
「いいなぁ。俺もオーダーメイドの服で冒険したい」
冒険者は、基本的に旅装束は店頭で販売されている量産品を購入して揃える。その方が安く済むからだ。
武器にせよ防具にせよ、特別に仕立ててもらった装備品は基本的に高額で、そういうのを身に着けるのはそれなりの稼ぎがある熟練の冒険者の証なのだ。
「これから頑張って、いつかそういう服を着られるようになればいいじゃないの」
コニアさんは腰の後ろにあるポーチから、1枚の紙を引っ張り出した。
今回彼らが受注した仕事の内容が書かれている紙だ。
「えっと……クロウラーは、この街道を少し行ったところにいるみたい」
「よし、頑張るぞ!」
自らを鼓舞するように声を上げて、ユーリ君は街道に沿って歩き始めた。
その後を付いて行くコニアさん。
僕は少し離れた位置から2人を見守るような形で同行する。
問題のクロウラーが巣食っている場所は、街からそう遠く離れてはおらず、30分ほど歩いたところで発見することができた。
木と木の間に、白く輝く膜のようなものが見える。
あれは、クロウラーが吐き出した糸だ。
まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされているそれに、2人は忌避の顔をした。
「気持ち悪いなあ」
「クロウラーは?」
コニアさんは辺りを見回した。
その言葉を待っていたかのように。
木の陰から、巨大な芋虫がのっそりと這い出てきた。
黄色いボディに黒い目玉のような模様があるのが特徴で、ぱっと見た感じアゲハの幼虫をそのまま大きくしたかのような外見をしている。
あまり好戦的な魔物ではないのか、それとも単純にこちらに気付いていないだけなのか、襲ってきそうな気配は今のところは感じられない。
魔法を遠くから放てばそのまま仕留められそうな雰囲気である。
それは2人にも分かっているのか、ユーリ君が杖を構えながら1歩前に出た。
「俺が魔法で仕留めるよ」
言って、意識を杖に集中させるユーリ君。
ぽっ、と。
杖の先端に、蝋燭の灯火のような小さな炎が出現した。
掌サイズにも満たない、本当に小さな炎だ。
それを見て僕が思い出したのは、ダンジョン探索の時にルカさんが使っていた火魔法の数々だった。
本来ならば、あれくらいの威力が見込める魔法なのだろうが……
「ファイアボール!」
ユーリ君は生み出した炎をクロウラーに向けて放った。
小石を投げたかのように緩く弧を描きながら炎が飛んでいく。
……小さすぎるから、少し離れたら何処に行ったのか分からなくなっちゃったよ。
あれではクロウラーを仕留めるのは無理だ。
クロウラーの頭が、ゆるりとこちらを向く。
先程の炎が当たったのだろうか。こちらの存在に気付いたようだ。
コニアさんが剣を構えた。
「全然効いてないじゃない!」
いや、無理でしょう。あの威力だと。
ユーリ君は杖を握り締めて、クロウラーを睨み付けた。
「効くまで何発も撃てばいいんだ!」
諦めないのは立派だけど、時には現実を見るのも大事なんじゃないのかな。
クロウラーがゆっくりとこちらに向かって這って来る。
……これは、僕も戦うことを覚悟しないと駄目なようだ。
身構えるコニアさんの後ろで、僕も持っていた剣をそれらしく構えた。
かくして、初心者パーティの初めての戦闘が幕を開けたのだった。




