第32話 そして、西へ
イヴさんの魔法講習会には、予想よりも多くの人が集まった。
普段はそこまで人でぎゅうぎゅうにならない交流スペースが、大勢の人で賑わいを見せていた。
クエストボードに貼ったポスターが功を奏したようだ。
講習会では、僕が習った圧縮魔法以外にも多くの魔法の教授が行われた。
それらを全て講習会に訪れた人々が覚えられたかどうかは、分からなかったけれども。
これだけの人が集まったのだ、講習会は成功で幕を閉じたと言って良いだろう。
僕は、暇を見て圧縮魔法の練習を行うようになった。
鑑定品を練習台にするのは流石にまずいので、自前の眼鏡を使って。
繰り返し練習をしているうちに、やはり慣れてくるものなのか、最初の頃と比較するとそう長い時間を掛けずに魔法を使うことができるようになった。
魔法を教えてくれたイヴさんには感謝である。
「お世話になりました」
講習会が終わって。イヴさんは改まって、ヘンゼルさんに一礼した。
「無事に講習会を終わらせることができました。これも全て、ヘンゼルさんを始めとする冒険者ギルドの方々が協力して下さったお陰です」
「お役に立てたようで何よりよ」
ヘンゼルさんは僕にちらりと視線を向けて、
「イオちゃんもお世話になったことだし」
イヴさんの目がこちらに向く。
僕は控え目に頭を下げた。
「貴女はこれからランメイに帰るのかしら?」
「いえ。このまま西に向かいます。魔法を広めるためには、まだまだ尽力しなければならないと思っていますので」
此処から西……となると、カレイドの街か。確かその街にも冒険者ギルドがあったはず。
魔法を広めるための旅、どうやらそう簡単には終わらないようである。
頑張れ、イヴさん。
「それでは、失礼します」
「また来てちょうだいね」
「はい!」
ヘンゼルさんの言葉に笑顔で元気良く答え、イヴさんは西を目指して旅立っていった。
「……若いっていいわね。アタシにもあったわ、あんな時代が」
ヘンゼルさんは微笑みながら言った。
そういえば、ヘンゼルさんって若い頃は冒険者だったんだっけ。
「若い人に負けていられないわね」
うん、と気合を入れるポーズを取り、彼はカウンターの奥に引っ込んだ。
僕はイヴさんが出て行った大通りの方に目を向けて、ぐっと背筋を伸ばした。
次に彼女が此処に来た時、僕に魔法を教えたことを後悔させないように、魔法をしっかり使えるようになっておこう。
そのようなことを考えつつ、自分の作業場に戻ったのであった。




