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第31話 イオ、圧縮魔法を覚える

 昼食は無難に鉄板焼にした。

 カリッと焼けたベーコン、この味がたまらないんだよね。

 冒険者ギルドの交流スペースで、僕とイヴさんは鉄板焼を頬張った。

 シャキシャキのキャベツが甘くて美味い。いつもと変わらない屋台ならではの味だ。

 料理をぺろりと平らげて、腹が満足した僕は寛いでいた姿勢を正した。

 此処からは、イヴさんによる魔法講習会の時間だ。

 イヴさんは何処からか取り出した魔道書を広げて目の前に置くと、僕の目をじっと見据えて話をし始めた。

「それでは、圧縮魔法について教えますね」

 お、本格的だ。

 僕はイヴさんの手の動きに注目した。

「圧縮魔法は、文字通り物質を圧縮するための魔法です。任意の大きさに縮めることによって運搬を楽にすることができます。私たちは、これを討伐した魔物や物資に用いて運搬にかかる手間を軽減しているわけです」

 イヴさんの両手が、魔道書の上で籠を表す形になった。

「圧縮魔法を使う時は、魔力をこう……物質を包み込む籠のような形に編みます。この籠を縮めるようなイメージを魔力に注ぎ込んで、物質の圧縮を為すわけですね」

 言って彼女は、傍らによせておいた鉄板焼を包んでいた包み紙を手に取った。

 くしゃりとそれを丸めてボールの形にして、僕の目の前に置く。

「貴方は鑑定士ですから、魔力の扱いについては既に慣れていると思います。なので、魔力の操り方についての説明は飛ばします。魔力を籠の形に編むところから始めてみましょう。このゴミを包み込むようなイメージで、魔力を籠の形に編んでみて下さい」

 魔力を籠の形に編む……か。

 僕は鑑定魔法を使う時、特に魔力がどうのって考えているわけじゃないんだけど、それでも魔力を意思によって操ることはできるのだろうか。

 考えるよりも、まずはやってみるか。

 僕は包み紙に視線を注いだ。

 魔力を籠の形に──

 意識を集中させて、見えない指を伸ばすような感覚で、包み紙を優しく抱き込むイメージを描く。

 体内を巡る力の流れを意識する。髪の毛の先まで、動きを捉えるように心の目でしっかりと見つめる。

「そう。良いですよ。そのまま、魔力で目標物をしっかりと包み込んで──」

 丸く。丸く。優しく、抱くように。

「しっかり包み込めたと思ったら、今度はそれを小さく縮めていくイメージを描きます。身体を縮めていくようなイメージで、少しずつ、ゆっくりと──」

 籠を、縮めていく。小さく、小さく、握り込むように、少しずつ。

 僕の視線の先で、包み紙がかさりと小さく音を立てた。

 ふっ──と、頭の先から何かが抜けていくような感覚を覚えた。

 縮んでいく。

 包み紙が、文字通り、小さくなっていく。

 僕は包み紙に手を触れていない。しかし確かに包み紙は、僕たちの目の前で、少しずつ、その大きさを縮めていきつつあった。

 掌サイズだったものが、片手で握り込めるほどになり、指の大きさにまで縮み。

 そして遂には、指先ほどの大きさにまで小さくなった。

 ふぅ……とゆっくりと僕は息を吐いた。

 イヴさんが小さく拍手する。

「上手くできたじゃないですか」

 どうやら、上手くいったらしい。

「そうしたら、今度は元の大きさに戻してみましょう。先程とは逆に、縮めた籠を大きく広げていくようなイメージを描いてみて下さい」

 縮めた籠を大きく広げるイメージ──

 僕は包み紙に意識を集中させた。

 イメージ。包み紙を内側から膨らませていくように、大きくしていくイメージ。

 少しずつ。少しずつ。慌てないで、ゆっくりと。

 包み紙が、膨張を始める。

 植物が葉を広げていくように、少しずつ、元の大きさに戻っていく。

 1分ほどの時間をかけて、それは完璧に、元の大きさに戻った。

「できましたね」

 イヴさんは包み紙を手に取って、ぽんと手中で放った。

「慣れれば、もっと早くできるようになりますよ」

「僕、ちゃんとできてましたか?」

「はい。完璧です。流石鑑定士さん、飲み込みが早いです」

 ……初めて、鑑定魔法以外の魔法を使った。

 魔法がこんなに神経を使うものだとは思っていなかった。

 魔道士って凄いんだな。色々な魔法をぽんぽんと操るんだもんな。

「後は御自分で練習して慣れていって下さいね」

 やはり最後は練習あるのみか。

 でも、それでもいい。初めて鑑定魔法以外の魔法が使えたことが嬉しい。

 圧縮魔法なんて鑑定士の身では使う場面が限られるだろうけど、せっかく覚えたんだ、満足に使えるようになろう。

 僕は頭を下げた。

「御教授ありがとうございます」

「こちらも、良い講習会の練習になりました。ありがとうございます」

 僕とイヴさんは互いに顔を見合わせて、笑った。

 こうして、特別講習会は昼休憩時間の終わりと同時に終わりを告げたのであった。

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