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第30話 特別講習会

「♪~」

 鼻歌が聞こえる。

 鑑定品を持って僕が階下に下りてくると、交流スペースのテーブル席で何かを作っているイヴさんの姿を見ることができた。

 手元をちらりと覗くと、ポスターだろう、魔法を使っている魔道士の絵が描かれた紙が見えた。

 鑑定品をカウンターにいるヘンゼルさんに預け、僕はそっとイヴさんの背後に近付いた。

「準備は順調ですか?」

「わっ」

 イヴさんの上半身がびくりと跳ねた。

 ……驚かせる気はなかったんだけどな。

 イヴさんは振り向いて、僕の顔を見つけるなり笑顔を浮かべた。

「はい。おかげさまで……後は実際に講習会を開くだけとなりました。御協力本当にありがとうございます」

 出来上がったらしいポスターを持って、彼女はカウンターの方に歩いていく。

 ヘンゼルさんにポスターを渡してこちらへと戻ってきて、彼女は僕の全身をまじまじと見つめた。

「貴方……鑑定士さんですよね。鑑定士は魔法の素質がないとできない職業だって聞いたことがあります」

「ええ、まあ」

 僕は頷いた。

 鑑定士は鑑定魔法が使えないとなれない職業だ。そういう意味では、鑑定士も魔道士も同じ魔法が使える存在ということになる。

 イヴさんは胸の前でぽんと両手を合わせて、言った。

「どうですか? 貴方も魔法を覚えてみませんか?」

「へ?」

 唐突の申し出に、僕は目を瞬かせた。

「荷物運びに便利な圧縮魔法なんて、如何でしょう。私、一生懸命教えますので」

「え、今ですか?」

「あら、いいじゃないのイオちゃん」

 カウンターからのんびりとしたヘンゼルさんの声がする。

 彼は首を伸ばしてカウンターからこちらを見つめてきて、言った。

「貴方、そろそろお昼休憩の時間でしょ。教えてもらったら?」

 言われて、僕は時計を見た。

 ……確かに、そろそろ昼の休憩を取る時間帯だ。

 昼食は屋台の食事で簡単に済ませようと思っていたところだし、空いた時間で彼女に教えを乞うのはありかもしれない。

 それに、彼女のきらきらした瞳を見ていると──

 僕はくしゃりと後頭部を掻いた。

 断れないんだよね。こういう目で見つめられると。

「昼飯買ってきちゃいますので、その後でもいいですか?」

「はい、それはもちろん」

 ぱ、と満面の笑顔で答えるイヴさん。

 はたと唐突に自分の腹に手を当てて、彼女はえへへと笑いを零した。

「私もお腹空いちゃいました。お昼御飯御一緒しても良いでしょうか?」

 さっきの動作は腹が鳴ったのを隠す動きか。

 僕は眼鏡を外して、言った。

「それでしたら、一緒に行きましょう。美味しい屋台の店、御紹介しますよ」

「わあ、いいですね。宜しくお願いします」

 イヴさんは僕に寄り添った。

 さて、彼女もいることだし、何を買って来よう。

 無難に焼き物辺りにしておこうか。

 彼女を連れて、僕は冒険者ギルドを出た。

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