第296話 鑑定士のおしごと
「イオちゃん、鑑定依頼よ。依頼者さんはお昼に来るから、それまでに宜しくね」
「分かりました」
引越し作業も無事に終わり。僕は冒険者ギルドで、今までと同じようにお勤めに励んでいた。
本のこともあって冒険者ギルドに来るのは冒険者だけではないけど、それを除けば今までと変わりない鑑定士としての生活がそこにあった。
品物を鑑定して、冒険者たちの鑑定をして、時にはギルドの仲間と世間話をして。
ああ、僕は幸福者だなって実感を噛み締める。
だって、そうでしょう? 何の変哲もない日常が、こうして身の回りに広がっているんだもの。
人生は非凡な方がいいって言う人がたまにいるけど、僕にとってはこの『何の変哲もない』が何よりも大切なのだ。
思えば、今まで色々あった。
ダンジョンの調査依頼が舞い込んできたり、魔物が街中に現れたり……
そういうのは、あっては困るとは言わないけど、時々あればいい方だって思う。
僕はただの鑑定士なのだから、その身の丈に合った出来事が味わえればそれで十分なのだ。
鑑定士は、表舞台には立たない、裏方の仕事だ。
でも、その裏方の仕事が日々世界を闊歩している冒険者たちを支えているのだと思うと、十分に遣り甲斐がある仕事だと言えるのではなかろうか。
特別なんていらない。普通でいい。
その普通の積み重ねがひとつの物語を作っているのだと、こうして胸を張って言えるから。
「ジャド君、鑑定は済みました?」
「はい。此処にあるものは一通り済みましたよ。カウンターに持って行きますか?」
「お願いします」
今は、世界はまだ揺れ動いている。
凶悪な魔物がひしめいている問題や、魔族との和睦の問題など。
僕が今できることは、全てやったつもりだ。後は出るべき人たちにバトンを渡して、解決に向けて裏方で彼らを支える役に徹しようと思う。
それが、鑑定士たる僕の仕事なのだ。
「さあ……どんな結果が出ますかね」
鑑定依頼品を目の前に置いて、僕はルーペを道具箱から取り出した。
「鑑定眼」
──これは、何の変哲もない鑑定士が体験した日常を描いた何の変哲もない話。
僕たちが新たな出来事を経験して表舞台に立つのは、そう遠くない未来にある、また別の物語だ。
色々ありましたがこれでひとまず完結です。此処まで来れたのは読んで下さった皆様のおかげです。
今まで読んで下さいまして本当にありがとうございました。




