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第293話 タロイを去る日

 肌に触れる空気が冷やりと冷たく、しかし空は爽やかに晴れた、そんな朝。

 僕はスノウと並んで冒険者ギルドの前に立っていた。

 背後には、ノーグさんを始めとする冒険者ギルドの面々の姿。

 彼らに、僕は深々と頭を下げた。

「短い間でしたが、お世話になりました」

 旅立ちの日。遂に、僕がラニーニャに帰る日が決まったのだ。

 遂にこの日が来たのかと思うと、ちょっと淋しい。

 何のかんので、僕はタロイに結構馴染んでたんだなって思う。

「たまには遊びに来いよ」

 ノーグさんは腕を組んで、僕の顔をじっと見つめていた。

「ラニーニャとタロイは隣同士の街だ。来ようと思えばいつでも来れる場所だからな」

「はい」

「待ってるぞ」

 通りの向こうから馬車が走ってくる。

 馬車は僕たちの背後にゆっくりと停車した。

「何処まで行くんだい?」

「ラニーニャまでお願いします」

「ラニーニャだね。了解」

 御者に行き先を告げて、先にスノウを馬車に乗せる。

「それでは、お元気で」

「イオさん」

 僕も馬車に乗ろうと身体を反転させかけた、その時。

 ジンさんが、手にした包みをこちらに差し出してきた。

「これ、お弁当です。ロアンニさんが作って下さいました。旅先で食べて下さい」

「ありがとうございます」

 そういえば、ラニーニャを出る時もジャド君が手作りの弁当をくれたんだっけ。

 いつの時代も何処の街でも、人の情というのは温かくて有難いものだね。

 弁当を受け取って、僕は馬車に乗り込んだ。

「達者でな!」

 ノーグさんたちの声を横から聞きながら、馬車がゆっくりと発車するのを身体で感じ取る。

 僕は彼らの方に身体を向けて、手を振った。

 景色が流れる。皆の声が遠ざかっていく。

 軽快な音を立てて走る馬車の音に紛れて、声は次第に聞こえなくなっていった。

「風が気持ちいいねー」

 スノウが窓から顔を出して空を見上げている。

 そうだね、と言って、僕は貰った弁当をしっかりと抱き抱えた。


 タロイの街が遥か後方に消えていく。

 あの街は、僕に色々な経験をさせてくれた貴重な場所だ。

 僕にとって、第2の故郷と言っても過言ではない街だった。

 ラニーニャに帰っても、僕はそのことを忘れることはないだろう。

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