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第289話 此処を家だと思って

 翌日。朝から僕は仕事場で新聞作りをしていた。

 魔族の国で見聞きしたことを世間の人たちや冒険者たちに伝えようと思って、作ることにしたのだ。

 僕の力でできるのはこれくらいだけど……この新聞を見た人たちが少しでも魔族に対する認識を改めて、魔族の国に興味を持ってくれればいいなって思う。

 ……よし、こんなものだろう。

 作った新聞は、ノーグさんの了解を得て早速クエストボードへと貼らせてもらった。

 1人でも多くの人の目に留まるといいな。

 貼った新聞を見つめていると、マキノさんが横から覗き込んできた。

「何を見てるんですか?」

「これですか? 手作りの新聞ですよ。少しでも多くの人に、僕の考えが伝わればいいなと思いまして」

「へぇ」

 マキノさんは新聞をじっと見つめた。

「魔族が、人間と友好関係を結びたがってる……ですか。聞いただけではちょっと信じられないですね」

 おそらくマキノさんも、これまでに魔族が起こしてきた数々の事件のことを知っている人間の1人なのだろう。

 彼女も、この新聞を読んで少しでも魔族に対するイメージを変えてくれたらいいのだが。

「信じられないでしょうが、これが現実なんですよ。僕たちも彼らの言葉に耳を傾けなければならない、今はもうそういう時代なんです」

「イオ、マキノ、鑑定の仕事だ。宜しく頼むぞ」

「はい、分かりました」

 新聞を貼った後は、マキノさんと一緒に鑑定業務に勤しんだ。

 今日も鑑定依頼品が一杯だ。タロイのダンジョンが様変わりした影響はあるけれど、それでも冒険者たちの活躍の場が多いということがこれらの品々を見ていると分かる。

 僕は近々タロイを去る。その時もこうして冒険者ギルドが繁盛していればいいなって、思う。

 まあ、何らかの事件が起きない限りは大丈夫だろうって、思ってるけどね。

「マキノさん」

 鑑定品をテーブルの上に置いて、僕はマキノさんに言った。

「僕がいなくなったら、自分が此処の顔なんだって思ってお勤めに励んで下さいね」

「いなくなるって……急に、どうしたんですか?」

 僕は彼女に、自分が元々はラニーニャの鑑定士であること、此処へは新しい鑑定士が見つかるまでの間だけ勤めていたことを話した。

 話を聞き終えたマキノさんは、少々淋しそうな顔をした。

「そうだったんですか……これからイオさんと2人で鑑定のお仕事をしていくんだって思ってたから、残念です」

「大丈夫、マキノさんなら立派に1人でもやっていけますよ」

「はい、頑張ります」

 マキノさんは慣れた様子で鑑定品を次々と捌いていく。

 此処に勤める前も別の場所で鑑定士として働いてたんじゃないかって思えるくらいの手捌きだ。

 これなら、僕がわざわざ教えることもないだろう。安心して、彼女に此処のことを任せることができる。

 今日から、ラニーニャに帰るための準備を始めよう。

 引越しの時に持ってきた荷物は大した量ではないから、その作業もすぐに終わるだろう。

 後は、ノーグさんにきちんと話を通さないとな。

 今なら時間もあるし、大丈夫かな。

 僕は鑑定の仕事をマキノさんに任せて、ギルドカウンターに向かった。

 ノーグさんに話をすると、彼は残念そうな顔をした。

「そうか、ラニーニャに帰るか……お前は此処でよく働いてくれてたから、いなくなると淋しくなるな」

「すみません。でも、元々僕は代理でしたので……ようやく本来の形の冒険者ギルドになったのかなって、思ってます」

「まあ、すぐには帰らないだろ? 残り少ない日数だろうが、此処を家だと思って勤めてくれよな」

「はい」

 これで、話も済んだ。後はいつラニーニャに帰るか、その日を僕が決めるだけだ。

 急いで決めることでもないが、なるべく早めに決断しようと思っている。

 あまりだらだらと決断を先延ばしにしていると、肝心の僕がタロイを離れるのを躊躇ってしまうからね。

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