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第287話 それぞれの帰路

「よく眠れたかい」

 朝。ぐっすりと眠って良い気分で目覚めた僕を、ジェラルディンは部屋の前で待っていた。

 ひょっとして僕が目を覚ますまでずっと部屋の前にいたんじゃないかって思ったからびっくりしたよ。

 僕が頷くと、彼は朝食にしようと言って僕を食堂まで連れて行った。

 食堂には既にフェルディユさんがいて、彼女は控え目にパンを齧っていた。

「おはようございます」

「おはようございます。お先に頂いてました」

 朝食はパンに野菜たっぷりのスープ、スクランブルエッグと随分軽めのメニューだった。寝起きには有難いね。

 このスクランブルエッグ、どうやって作ったのかは分からないけど随分ふわふわだ。卵に掛かってる特製のソースも美味しい。

 朝食を食べていると、同じ食事の席に着いて紅茶を飲んでいたジェラルディンが言った。

「食事が済んだら出発するよ。今から出れば夕方には街に着くからね」

 ちゃんと時間を逆算して考えてくれているのか。

 何から何まで至れり尽くせりだったな。彼は。

 僕たちが国にとって大切な来賓だからやっていることなのかもしれないが、僕も彼に対する態度はもう少し改めた方が良かったのかもしれないなと僕は思ったのだった。


 凶悪な魔物がひしめくダンジョンを抜け、平原を東に向かって歩み続け、僕たちがタロイの街に到着した時には既に日は西に沈みかけていた。

 ジェラルディンは街の入口まで来ると、立ち止まった。

「それじゃあ、此処で君たちとはお別れだ。此処まで来れば、後は自分たちで帰れるよね?」

 どうやら彼は、街の中までは入らないようだ。

 彼の目的はあくまで僕たちを無事にタロイの街まで送り届けることだから、目的を果たした今となってはわざわざ同行するつもりはないということか。

「実に有意義な時間をありがとう。君たちが僕の国に来たことは、僕たちにとって良い影響を齎すことだろう」

「……こちらこそ、色々とありがとうございました」

 フェルディユさんはゆっくりと、深く頭を下げた。

「今回のことで、私たちの魔族に対する認識は変わりました。これから先人間と魔族が共に暮らしていけるように、私たちは尽力していくつもりです」

「うん。そうしてもらえると嬉しいかな」

 ジェラルディンはにこりと笑って、杖を持っていない方の手をこちらに差し出してきた。

 握手を求めるサインだ。

 彼はまずフェルディユさんと握手を交わし、続けて僕とも握手を交わした。

「僕は、一般人です。フェルディユさんと違ってできることには限りがあるし、周囲の人たちに与える影響も微々たるものです」

 しっかりと手を握りながら、僕は言った。

「……でも、僕にもできることはあります。貴方の国で見知ったことを、僕ができる範囲で皆に伝えていこうと、そう思っています」

 僕はひとつの街の冒険者ギルドに勤める鑑定士だ。

 そんな立場の僕だからこそ、できることはあると思うのだ。

 少しずつ、伝えていこうと思う。魔族が平和を願う、人間と何ら変わらない種族なのだということを。

「頑張ってね。期待しているよ」

 ジェラルディンは僕から手を離し、1歩身を引いた。

「それじゃあ、元気でね。僕が認めた人間たち。君たちが真の平穏を作ってくれることを、願っているよ」

 彼はそのまま僕たちに背を向けて、日が暮れゆく平原を西を目指して歩いていった。

「──それでは、私も此処でおいとまさせて頂きますね」

 街の入口を1歩くぐって、フェルディユさんはこちらに向き直った。

 彼女は宿を取ってそこで1泊し、翌朝王都に向けて旅立つとのこと。

 全滅した調査隊のこともあるし、彼女は色々やるべきことがあって大変だな。

 せめて王都に着くまでの間は平穏に過ごしてほしいと思う。

「いつかまたお会いしましょう」

「はい。フェルディユさんもお元気で」

 彼女は雑踏の中に姿を消した。

 僕も、冒険者ギルドに帰ろう。帰りを待っている人たちがいるからね。

 僕は背筋を伸ばして、冒険者ギルドに続く道を歩いていった。

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