第286話 鑑定士、もてなされる
「どうだった? 僕の国は」
城に戻ると、穏やかな微笑み顔のジェラルディンが入口のところで僕たちを出迎えた。
ひょっとして、普段から玉座にいないであちこち歩き回ってるのか? 彼は。
そういえば、全滅した調査隊をダンジョンで発見したのも彼だしなぁ……
「穏やかな雰囲気の町でした」
フェルディユさんはジェラルディンの問いに静かに答えた。
「私たちを見ても騒がれたりしませんでしたし……本当に、魔族が人間と共存しようとしているのだという空気が伝わってきました」
「でしょう?」
うふふ、と笑って、ジェラルディンは両手を広げた。
「ろくに争う理由もないのに争うなんて馬鹿げてると思うんだよね。僕は。互いに笑顔で過ごせるのなら、それが1番いいんだよ」
ジェラルディンはとても満足そうな様子だった。
おそらく、心から喜んでいるのだろう。僕とフェルディユさんに、魔族が抱いている思いをきちんと伝えることができて。
「さあ、夕食の用意ができてるよ。それとも入浴が先の方がいいかな? だったら侍女に言って準備させるけど」
夕飯って……もうそんな時間なのか。
此処は空が真っ暗で、それでいて地面は明るいし、時間感覚が曖昧になるんだよね。
まさか夕飯や風呂の用意がされているなんて夢にも思わなかったけど。
「夕飯、頂けるんですか?」
僕が尋ねると、ジェラルディンは当たり前じゃないかと言って手にした杖で足下をこつんと突いた。
「君たちは僕が招いた大事な客人なんだから、そうするのは当たり前だよ。ひょっとして人間の世界では、客人をもてなす習慣がないのかな?」
「そういうわけでは……」
「だったら、決まり。さあ、食堂に行こうか」
くるりと踵を返し、ジェラルディンは歩き出した。
魔族とはいえ、王族が食べる食事か……ちょっと期待しちゃうな。
僕とフェルディユさんは顔を見合わせて、互いに頷き、ジェラルディンの後を追いかけた。
夕飯は、これぞ王族の食事、と思えるような豪華なフルコースだった。
材料が分からないのがちょっと怖いけど、何かの肉をじっくり煮込んだスープも、彩り豊かなサラダも、メインのステーキも美味しかった。こんな料理、食べる機会なんて2度とないだろうな。
食事が終わったら、使用人に連れられて風呂へ。
これがまた豪華で広々とした浴場で、身の回りの世話をする使用人が付いていたことには驚かされた。
自分で入れますからって身の回りの世話は遠慮したけどね。
フェルディユさんと混浴だったことが唯一気になったことではあったけど、それを抜かせばゆっくりと入浴を堪能することができた。
風呂を済ませた後は、今日僕が寝泊まりする部屋に案内された。
今から国を出たらタロイの街に着くのは夜中になってしまうから、ゆっくり身体を休めて明日の朝此処を発つことにした方が良いんじゃないかって話になったのだ。
スノウ、大丈夫かな。誰かが面倒を見てくれてたらいいんだけど。
ふかふかの布団はとても軽くて温かくて、僕は寝床に入ってすぐに眠りに落ちてしまった。
明日、魔族の国を発つ。今はゆっくりと、身体を休めることに従事しよう。




