第281話 一歩を踏み出して
64個目の評価を頂きました。ありがとうございます!
最近は別の話の執筆に時間を取られていてこちらの話に触れる機会がなかなか取れませんが、そんな中でも閲覧して頂けて嬉しいです。
「僕が……魔族の国に?」
「うん」
ジェラルディンは微笑み顔のまま、耳元の髪を掻き上げて、頷いた。
「少しの間だけど一緒に過ごしてきて、僕は確信したんだ。君は、一時の感情に流されないで冷静に物事を考えられる人間だってね」
馬車の旅で共に過ごしている間に、僕のことを観察していたのか。
僕の方からは、普通に馬車の旅を満喫しているようにしか見えなかったけど……
「せっかく僕の国を見てもらうんだもの、表面だけじゃなくて、深いところまでじっくりと堪能してもらいたいじゃないか」
ジェラルディンは、良くも悪くも本当のことしか言わない。言い回しで誤認を誘うようなことをしてはくるが、それだけは信用していいとは思っている。
彼は本当に、僕を来賓として招きたくてこの誘いをしてきているのだ。
問題は、僕がそれを承諾するかどうか。
絶対に行かないと誘いを断ることはできる。僕の方からしたら誘いに乗らなければならない理由はないのだから。
しかし、此処で招待を受け入れなければ進まない話もあるというのもまた事実だ。
これは、ある意味大きなチャンスなのではなかろうか。人間と魔族とが互いに距離を詰めるための。
魔族と親睦を深めることによって、今後人間と魔族とが争うことがなくなるかもしれないのだ。
それは、僕たちからしてみれば願ってもないことであって。
そのためにこの招待を受けるのだと考えれば、決してマイナスにはならない。
ただ──僕は一般人だ。王族でもなければ、王都に属する人間でもない。
僕だけが招待を受けても、人類全体の魔族に対する認識が変わるわけではない。
ジェラルディンがどういう基準で自国に招待する人間を選んでいるのかは分からないが、本気で人間と共存したいと考えているのなら、王族を招待するべきではないのだろうか。
「何故、僕なんですか? 僕以外にも、招待するに相応しい人は大勢いると思うのですが」
僕がそう問いかけると、ジェラルディンは肩を竦めて、答えた。
「そのうち招待しなくちゃならない人間もいるよ、もちろん。だけど今はまだその時じゃない。今はただ、僕たちのことを色眼鏡で見ないでくれる人間だけに限らせたいんだ」
頭ごなしに魔族だから、と決め付けずに現実を見てくれる人間だけを吟味している、ということか。
「何事にも順番というものがあるんだよ」
「……イオ。どうするんだ」
ノーグさんが神妙な顔で僕を見た。
僕は視線を伏せて、考えた。
正直、何が起こるか分からなくて不安だという気持ちはある。
でもそれ以上に、僕が行くことによって未来の平穏に貢献できるなら、という気持ちがあるのも事実だった。
……初めてかもしれないな。僕が自分から足を踏み出そうとするのは。
「……分かりました。その招待、お受けします」
「君ならきっと快く受けてくれると思ってたよ」
ジェラルディンは嬉しそうに笑って、こちらに歩み寄ってきた。
僕の目の前まで来て、立ち止まり、杖を持っていない方の手を差し出してくる。
「それじゃあ、行こうか」
え、もう?
まだ心の準備とか、何もできてないんだけど……
ジェラルディンはノーグさんの方に視線を移して、言った。
「イオ君のこと、借りるよ。行きと帰りは僕が送ってあげるから、心配はしなくていいからね」
「……お前が行くと自分で決めたなら俺は何も言わん。行って来い、そして魔族が何を考えてるのか、それをしっかりと見極めてこい」
ノーグさんは腕を組んで、僕を真面目な面持ちで送り出した。
何か息子を戦場に送り出す父親みたいになってるよ、ノーグさん。
まあ、行き先が行き先だもんね。近場の食品店に買い物に行くのとはわけが違うんだもんね。
仕事をほったらかしてギルドを空けるようなことになってすみません。戻ったらちゃんとお勤めしますから今は無事な帰りを願っていて下さい。
「国までは歩きになるけど、魔物には襲わせないからちょっとしたピクニック感覚で旅を楽しんでね」
「……魔法で一気に飛ぶとか、そういうことはしないんですか」
「君は僕を神様か何かと勘違いしてないかい? 僕にだってできないことはあるんだよ」
さあ行くよ、と僕の手を取って歩き出すジェラルディン。
僕はそれに引っ張られるような形で、彼と共に冒険者ギルドを出たのだった。




