第279話 調査隊の帰還
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竜がいた、という話は瞬く間に冒険者たちの間に広まった。
冒険者たちはこぞって竜の情報を聞きに冒険者ギルドに訪れた。
竜は何匹もいるのか。成竜なのか。種類は。
竜の情報を求める冒険者たちを相手に、ノーグさんはずっとギルドカウンターに張り付きっぱなしだった。
竜の情報なんて、そう豊富にあるわけではない。それでも訪れる冒険者たちに、可能な限りの情報を提供していた。
身を張るのは冒険者たちだ。彼らの力になるために、一生懸命になっていた。
流石、ギルドマスターだ。その姿勢は見習いたいって思う。
僕はノーグさんの代わりに仕事の受注処理などの業務を請け負っていた。
ラニーニャでの経験が役に立ったね。仕事は何でも経験しとくべきだって思ったよ。
ようやく冒険者たちがはけた時には、時刻は午後を大分回っていた。
今日の鑑定士の仕事はカウンター業務だけで終わりそうだなぁ。
台帳を開きながら、ノーグさんが言った。
「竜が出たとなると冒険者は目の色を変えるな。流石一角千金を狙える魔物というだけあるな」
ああ、だから皆竜の情報を欲しがるのか。
竜を狩れるのは熟練の冒険者パーティだけではあるが、竜を狙うのは熟練の冒険者パーティ以外にもたくさんいる。
自分たちにも狩れる竜がいるかどうか、情報を集めて吟味しているのだろう。
それで狩れるほど容易い存在ではないのだが。
「あれだけ竜を狙っている冒険者がいるなら、竜が街の方に来るといったことはなさそうだな。流石に何も警戒しないわけにはいかんが、とりあえずは安心しといていいだろう」
「竜の素材の買取が増えそうですね」
ニエルヴェスさんが聞いたら歓喜するだろうな。
「そうだなあ……竜が立て続けに狩られる状況ってのも凄いと思うがな」
「おい、誰か回復魔法を!」
外が何やら騒がしい。
僕とノーグさんは顔を見合わせて、戸口から外の様子を伺った。
冒険者ギルドの前に、人だかりができている。その多くは冒険者だが、中には偶然その場に居合わせたらしい一般人も混ざっていた。
誰かが倒れているようだ。人だかりの中に、地面に投げ出されている足を見ることができた。
「また竜にやられた冒険者か?」
ノーグさんはギルドを出て人だかりの方に歩いていった。
僕も気になったので、その後を追いかけた。
ギルドにはジンさんがいるから少しの間なら放っておいても大丈夫だろう。多分。
人の間に割って入って、倒れている人に注目する。
冒険者の腕に抱えられているのは、胸のところに紋章が描かれている銀の鎧を纏った青年だ。何の攻撃を受けたのか鎧はばっくりと腹の部分が割れており、夥しい量の血が流れている。
かなり失血しているのか、青年の顔色は悪い。早いところ腹の傷を塞がなければ命に係わるだろう。
それなのに周囲の人はこの状況を見ているだけで動こうとしない。
おそらく、回復魔法を使える人間がこの中にはいないのだ。
「治療は、僕が」
僕は名乗りを上げて、青年にヒーリングの魔法を唱えた。
少しずつではあるが、青年の腹の傷が塞がっていく。
傷を癒したことで意識が回復したのか、青年が閉じていた目を開けて、弱々しく開口した。
「……私は、王都の命でこの街の西にあるダンジョンを調査しに来た調査隊の一員だ……」
調査隊の人間が、何故こんなところに?
青年の言葉は続いた。
「誰か……王都に、伝えてほしい。調査隊は──」
そこまで言って顔を顰めて、目を閉ざし、ゆっくりと息を吐きながら告げる。
「──調査隊は、全滅したと……力及ばずこのような結果になって、すまないと……誰か……」
「────」
全滅。
調査隊の中には、フェルディユさんもいた。
彼女も……?
気力を失って沈黙する青年を見つめながら、僕は自分の顔が固く強張っていくのを感じていた。




