第273話 鑑定士、復活する
フェルディユさんは以前に門を調査した時の功績が認められて、王室お抱えの学者になったのだという。
だから彼女の一声で僕は牢屋から出してもらえたんだな。
成り行きではあったけど、門調査を手伝って良かったよ。
城を出た僕は、彼女がよく利用しているという食事処にお邪魔していた。
此処で注文できるフルーツパフェが美味しいのだと、フェルディユさんはにこにこ顔で店員さんにそれを注文していた。
僕はミルク入りのコーヒーを注文した。スノウにはパンケーキだ。
食事が運ばれてくるまでの間、僕は王都に来るまでにあった出来事を彼女に話して聞かせた。
「こうして聞いていると……本当に、その魔族は此処に話をしに来ただけって感じがしますね」
コップの水に口を付けて、フェルディユさんは言った。
「魔族は、人と共存する道を選んだのではないでしょうか」
それにしては魔物の増加を受け入れろ的なことを言ったり、人間側に対して配慮がない態度を取っていたような気がするのだが……
魔族には、人間と共存する気なんてこれっぽっちもないんだと思う。
ただ、全面戦争になると面倒だから、一応平和的に交渉しようというスタンスを取っただけで。
それは今後の魔族たちの動向を見て判断するしかないだろう。
「魔族との全面戦争は避けたいものです。それができるのなら、敢えて魔族側の話を受け入れるのもひとつの方法なのではないかと、私は思います」
「それは王様の意思ですか?」
「いえ、私の個人的な考えです」
だよなぁ。王様は人と魔族は相容れないって言ってたもんな。
「でも、進言だけはしようと思っています。戦争になれば多くの人が傷付きますし……それは避けたいと思っているのは、王様も同じのはずですから」
どうだろうね。案外大義の前には……って言うタイプかもしれないよ。あの王様は。
悪口を言うわけじゃないけど、自分が正義だって考えそうな人っぽかったからなぁ。
まあ、それは王都の政で話し合うことだ。一地方の一般人が口出しできることではない。
僕たちは今まで通り魔族の動向に注意しながら、必要に応じて冒険者ギルドで対処していくだけだ。
「お待たせしました」
僕たちが注文した食事が運ばれてきた。
目を引いたのはパフェの大きさだ。高さが30センチくらいある。
パフェ、思いの他でかいな。
これを1人で食べるのか? フェルディユさんは。
「とりあえずこの問題は、なるべく平和的に解決できるように努めます。それが人類を代表する王都の、王室の務めですから」
真面目な面持ちで言いながら、フェルディユさんはパフェの頂にスプーンを入れた。
チョコチップで彩られたクリームを掬って、口へと運ぶ。
「これこれ、この味です。お茶の時間にはこれがないと」
うっとりとした様子でパフェを味わい、頷きながらフェルディユさんはそういえばと話題を変えて話し出した。
「ところで、イオさんは何故王都に? 魔族の付き添いで此処に来たわけではありませんよね?」
「あぁ」
言われて、僕は自分がこの都市に来た本来の目的を思い出した。
うっかり忘れるところだったよ。
「王立図書館に用事がありまして。もう用事は済みましたけど」
沈黙の治療法を探しに来たことと、その治療法が分かったことをフェルディユさんに話した。
そういえば……フェルディユさんは結構腕のいい魔道士でもあるんだよな。
僕の治療をお願いしたらやってもらえるかな?
「フェルディユさん、頼み事ばかりで恐縮なのですが、僕の治療をお願いできませんか?」
「良いですよ。魔力を流せば良いんですね」
右手を貸して下さい、と言われたので、僕は自分の右手を彼女に差し出した。
フェルディユさんはそれを両手で包み込むように握り、意識を集中させ始めた。
身体の芯が、ぴりっとした感覚を感じた。まるで弱い雷に打たれたかのような感覚だ。
その感覚はすぐに消え、彼女は僕の手から両手を離した。
「終わりました。これで大丈夫だと思います」
どれ、早速試してみよう。
僕は掌を上にして、魔法を唱えた。
「ライティング」
ふわり、と掌の上を風が吹き抜けていくような感覚が生まれる。
幾分もせずに、煌々とした白い魔力の明かりが掌の上に出現した。
やった、治った!
試しに自分に鑑定魔法を掛けて確認してみると、状態を表す箇所にあった『沈黙』の表示は消えていた。
思わず笑顔が零れた。
僕は魔光を消して、フェルディユさんに頭を下げた。
「ありがとうございます。無事に治りました」
「どういたしまして」
フェルディユさんはにこりとした。
「これで気掛かりもなくなりましたし、ゆっくりと観光ができますね」
そうだな。後は帰るだけだし、冒険者ギルドで護衛の依頼を出したらまだ見ていない施設巡りでもすることにしよう。
そして夜はゼノンさんたちが名物だと言っていた生肉料理を食べよう。
せっかく遠出してるんだから、ちょっとくらいは旅気分を味わわないとね。




