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第271話 魔族の王かく語りき

41個目の評価と感想を頂きました。ありがとうございます。

一人称だと主人公目線でしか場の様子が分からないので、番外編を挿入して他の人目線で物語を書いてみるのは確かにありだなと思いました。番外編、真面目に検討したいと思います。

 城内に入ると入口の脇にいた衛兵に呼び止められて、僕たちは彼の案内で王様のいる謁見の間に行くことになった。

 それにしても、城内の何と煌びやかで広いこと。

 中にいる人間が小さく見えるのは、きっと気のせいではないだろう。

 壁に掛けられている絵画や飾られている壺なんかを見ながら、僕は自分が今王城の中にいるんだという事実を噛み締めていた。

 王様に会うなら、せめて風呂に入って身なりを綺麗に整えてからにしたかったな。

 汚い人間だなって思われたりしないか、心配だ。


 謁見の間は廊下を大分進んだ先にあった。

 飾り柱が何本も並んでいる空間の中央に臙脂色の絨毯が敷かれており、その先に1段高くなった場所がある。そこに玉座があり、王様と思わしき人物がゆったりと腰を掛けていた。

 赤いマントや金の王冠が如何にも王様って感じのする初老の男性は、衛兵に連れられて姿を現した僕たちに興味津々といった様子で視線を注いでいる。

 衛兵は王様に「謁見希望者です」と告げると、一礼をして僕たちの後方に回った。

 僕は身を固くしながらその場に跪いた。スノウも僕の真似をして同じように頭の位置を低くする。

 ジェラルディン君は……立ったまま、王様をじっと見つめていた。

 いいのかな、そんな無礼と思われるような行動を取って。

「儂に何の用かな?」

 王様がそう言うと、ジェラルディン君は1歩前に出て開口した。

「今日は挨拶に来たんだよ。人間社会では、此処の王様が1番偉い人だって聞いたから」

 随分フレンドリーに話しかけるんだな。無礼者扱いされても文句は言えないぞ。

 ああ、周囲にいる兵士たちの表情が険悪になっていく。

 それに気付いていないのかそれともいいやとでも思っているのか、ジェラルディン君は飄々とした態度を崩さぬまま言葉を続けた。

「これから同じ世界に暮らしていく生き物同士、互いのことくらいは知っておかないとね。それは人間でも魔族でも同じでしょ?」

 ………………

「……え?」

 僕は思わずジェラルディン君を見た。

 今……魔族って言わなかったか?

 ジェラルディン君は手にした杖で足下を突きながら、にこりと笑った。

「改めて、初めまして。僕はジェラルディン、魔族を統べる王さ。短い付き合いになるだろうけど、宜しく」

「魔族だと!?」

 周囲の兵士たちが一気にざわついた。

 王様の周囲に数人の兵士が集まり、持っていた槍をこちらに向けて構える。

 僕たちの後ろに控えていた兵士も、槍の穂先をこちらに突きつけている。

 魔族って聞いたら当然こうなるよな。

 しかも、この状況って……

 ひょっとして、僕も魔族に思われてる?

「何もしないよ。僕はただ僕たちの国を新しく作ったからその挨拶に来ただけなんだから……血気盛んだなあ」

 ジェラルディン君は──ジェラルディンは肩を竦めた。

「まあ、アレイアドのやり方が問題だったんだよね。僕は争っても得はないって言ったのに聞かないんだもの。嫌になっちゃうよね」

「国を新しく作った、というのは……」

 ジェラルディンを注意深く見据えながら彼に問いかける王様。

 ジェラルディンは左の手を、掌を上にして前に翳した。

 そこに、渦巻く闇のようなものが現れる。

 闇は、僕たちが注目する中人間1人分くらいの大きさに膨れ上がり、中央に何かを映し出す。

 それは、建物が連なる何処かの街の風景だった。

「此処から南に約4日行ったところ……そこにダンジョンがあるのは知ってるよね?」

 此処から南に4日行ったところ……といえば、タロイだ。

 確かにタロイの近くにはダンジョンがあるが──

「その中に作らせてもらったよ。空間をちょっと歪めてあるから君たち人間には見えないだろうけど、なかなかいい場所だよ」

 空間を、歪めた……?

 ひょっとして、僕が突然魔法を使えなくなったのって──

「安心して。僕たちは別に人間社会をどうこうしようってつもりはない。ただ穏やかに暮らしたいだけなんだ。まあ、地上に出る魔物の数は増えるから君たちからしたら問題かもしれないけど、そのくらいは許容範囲だと思って許してよ」

 翳した掌を握るジェラルディン。

 街を投影していた闇は、霧が晴れるように宙に霧散した。

「もしも君たちが僕が国を作ったことを許せないって言って攻めてくるなら、それでもいい。その時はこちらも相応の対処を取らせてもらう。……君たちがただ争いたがるだけの馬鹿の集まりじゃないことを期待するよ」

 僕も穏便に事は済ませたいしね、と言って、彼は1歩後ろに下がった。

「それじゃ、話も終わったし僕は帰ることにするよ」

 自分に突きつけられている槍を親しげにぽんと叩いて、彼は法衣ローブの裾を翻す。

 僕たちが呆気に取られている中、彼は此処に来た時と同じように絨毯の道を歩いて謁見の間から出ていった。

「穏やかに暮らしたいだけ……などと言っても信用できるわけがなかろう」

 椅子からゆっくりと立ち上がり、王様が言った。

 その目は、他でもない僕に向けられている。

「南で起きた事件のことは聞いておる。散々儂らの街を混乱させたことを忘れたわけではあるまい。魔族は人とは相容れぬ──それは他でもない御主らが証明したことではないか」

 ばっ、と片手を振って、声を張り上げた。

「その者を捕らえよ! 先の者は今すぐ行方を追い、同様に捕らえるのだ! 魔族を野放しにしてはならん!」

 僕の背後にいた衛兵が、僕の腕を掴んで後ろ手に拘束した。

 やっぱりそうなるのか!

 隣では同様に捕まえられたスノウが、喚いている。

「こいつら、悪い奴! やっつけるよ!」

「スノウ、駄目だ!」

 魔法を唱えようとするスノウを、僕は制止した。

「この人たちは悪い人じゃない……だから魔法は撃っちゃ駄目だ」

 此処でもしもスノウが魔法を使ったら、僕たちは正真正銘の反逆者になってしまう。

 運良く拘束を振りほどいて逃げられたとしても、お尋ね者として指名手配の身になってしまうだろう。

 それだけは、駄目だ。

 此処は、大人しくして僕が人間であることを証明するべきだ。

 僕がただの人間だと分かれば、話くらいは聞いてもらえるようになるはず。そうなるように努めて、僕もジェラルディンに騙されていたということを知ってもらう。

 だから……此処は我慢だ。

 ばたばたと外に飛び出していく兵士たちを見つめながら、僕は唇を噛んで今後の状況が良くなるように祈ったのだった。

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