第27話 錬金術ギルドの宅配
「ちわー」
15時を回った頃。色とりどりの薬瓶を詰めた木箱を肩に担いだ白衣姿の少年が、冒険者ギルドに姿を見せた。
錬金術ギルドのマスター、ニエルヴェスさんである。
ヘンゼルさんが依頼した薬品を届けに来たのだろうが、まさかギルドマスター直々に御足労とは。
「こんにちはニエルヴェスさん」
「よう、イオ君。相変わらず痩せてるなぁ、ちゃんと飯食ってる?」
ニエルヴェスさんはまっすぐにカウンターの前まで歩いてくると、僕の全身──といっても相手からは上半身しか見えないだろうが──を値踏みするように見つめた。
確かに僕は同年代の同性と比較すると痩せ型ではあるが……10も年下の子供に言われてしまうとは。
相変わらず遠慮がない。普段通りである。
「ヘンゼルさんなら解体場の方にいますよ。呼んできますか?」
「んー。いいよ。僕が行く」
彼はギルドの外に出た。作業場の方に向かったのだろう。
僕はカウンターの奥の通用口から作業場へと足を運んだ。
「ちわー。薬の宅配に上がりました」
「あらニエルヴェスちゃん。わざわざ来てくれたのね。助かるわ」
ヘンゼルさんは振り向いて、笑顔でニエルヴェスさんを迎えた。
ニエルヴェスさんは担いでいた木箱をゆっくりと足下に下ろして、寝かされている娘さんに近付いた。
「その人が、アーネル君が話してたラージトードに食われた人?」
「そうよ」
「ふむ……」
顎に手を当てて何やら唸るニエルヴェスさん。
娘さんの状態を観察することしばし、
「こりゃ酷いね。溶解薬ぶっかけたとしてもこうはならないよ」
「治療できる部分だけでも治してあげたいの。できるかしら?」
「厳しいねぇ」
ニエルヴェスさんは木箱から青色の液体で満たされた瓶を1本取り出した。
「ポーションじゃ皮膚の爛れを多少治すくらいしかできないだろうね。素直に教会の神官呼んだ方がいいんでないかな?」
教会の神官が扱う治癒魔法は、そこらの薬品とは比べ物にならないくらいの治癒効果を持っている。上位の神官が操る治癒魔法であれば、失われた手足を再生させることも可能らしい。
当然、施してもらうには莫大な費用がかかる。そういう理由もあって、冒険者の間では冒険者が操る治癒魔法やポーションのような薬品に頼るのが一般的だ。
人助けを是とする冒険者ギルドだが、流石にそこまでお人好しではない。
「それはこの子の家がやってくれると思うわ。アタシができるのはあくまで間に合わせの治療だけよ」
ヘンゼルさんは肩を竦めて、ニエルヴェスさんに手を差し出した。
「とりあえず、ポーション頂けるかしら?」
「りょーかい」
ヘンゼルさんに薬品を渡すニエルヴェスさん。
ヘンゼルさんは受け取った薬品を早速開封して、娘さんの口に含ませた。
ぱっと見た感じ、娘さんに変化は見られない。しかしこれで、多少は彼女の皮膚の具合も良くなるはずである。
「それじゃ、僕は帰るよ。ギルドをほったらかしにして出てきてるからね」
ニエルヴェスさんは顔の横にぴっと指を立てたポーズを取ると、さっさと皆に背を向けた。
「また御贔屓に」
「来てくれてありがとう。今度何か奢るわ」
「それだったらシルフの鍋亭のボロネーゼがいいなぁ」
シルフの鍋亭とは、調理ギルドに併設されている料亭の名前だ。
あそこのボロネーゼ、美味しいよね。僕も大好きだ。
──ニエルヴェスさんが錬金術ギルドに帰った後、アシュレイさんが戻ってきた。
アシュレイさんに仕事を依頼した人らしい。上品そうなコートに身を包んだ男を1人連れている。
変わり果てた娘さんの姿に狼狽する男を横目で見ながら、アシュレイさんはヘンゼルさんに言った。
「このまま彼女を引き取るよ。一刻も早く教会に連れて行きたいそうだ」
流石貴族といったところか。教会に支払う費用の工面を苦とはしていないらしい。
ヘンゼルさんは頷いた。
「分かったわ。アタシたちができるのは此処まで、後のことはお願いするわね」
アシュレイさんは娘さんの全身を布で丁寧に包むと、両腕で彼女を抱き上げた。
流石冒険者、腕力がある。
男を連れて作業場から出て行くアシュレイさんを見送って、ヘンゼルさんはぽんと手を打ち鳴らした。
「さ、仕事に戻りましょ。シークちゃん、ラージトードの処理をお願いね」
「採れた皮とか肉、どうすればいいんだ? あの冒険者さん、何も言わないで行っちまったけど」
綺麗に素材に分けて解体されたラージトードを見つめてシークさんが小首を傾げる。
「うちで貰っていいもんなのかね?」
「何も言ってなかったし、そうなのかもしれないわね。此処に置いといてもしょうがないし、そうさせてもらいましょ」
ヘンゼルさんはニエルヴェスさんが置いていった木箱を持ち上げて、カウンターの方へと戻っていった。
……僕も仕事に戻ろう。
ラージトードの素材に向き合うシークさんたちを残して、僕も仕事に戻るべく作業場を後にした。




