第26話 救出
救出された娘さんは、床の上に広げられた布の上に横たわっていた。
……話を前もって聞いていなければ、これが本当に娘なのか、と疑っていただろう。
そのくらい、彼女の肉体の損傷は激しかった。
衣服は身に着けていない。長時間胃酸に浸かっていたため、溶けてしまったのだろう。
全身に焼け爛れて引き攣ったような跡がある。胃酸で皮膚が溶解してしまったためにできた跡だ。
特に損傷が酷いのは、顔。
元の顔がどんな形だったのか分からないほどに、彼女の顔はぐちゃぐちゃになっていた。
髪はすっかり溶けてなくなっており、瞼や鼻の形が歪になっている。
完全に閉じられなくなってしまったのか、半開きになった唇の間からは歯が覗いている。
呼吸をしているのかどうかは、僕が立っている位置からでは分からない。
……まるで、腐乱死体を見ているような気分だ。
僕はこっそりと、彼女に鑑定魔法を掛けた。
……生きて、いるらしい。この有様でも。
命が助かっただけマシだと、果たして彼女は思えるのだろうか。こんな姿に変わり果てたことを知っても。
「一応軽く水で流したけど、しっかりと風呂に入れて洗ってやった方がいいかもな」
シークさんは腕組みをして、言った。
「後は、治療だな。錬金術ギルドに誰かやっとくか?」
「……そうね」
ヘンゼルさんは娘さんの状態を見て難しい顔をして、傍らに佇んでいたアーネルさんに錬金術ギルドに行くよう声を掛けた。
娘さんに布を掛けて皮膚が外に見えないようにして、アシュレイさんの方に振り向く。
「依頼主さんの方には報告に行くんでしょ? すぐに出るのかしら?」
「そのつもりだ」
アシュレイさんは頷いた。
「形はどうあれ、救出できたことに変わりはないからな」
「それって、先に報告だけしに行く形にできる? 今錬金術ギルドの方に使いを出したから、時間を貰えれば多少の治療ができるわよ」
錬金術ギルドには、怪我の治療に役立つ錬金薬が色々と揃っている。
錬金薬を使えば、流石にこの有様を完治……というわけにはいかないが、多少の治療はできるはずだ。
「薬の代金は冒険者ギルドの方で持つわ。治療費のことは心配しないでちょうだい」
「了解した。報告へは先に私1人で行くことにしよう」
アシュレイさんは踵を返した。
早速依頼主の方に報告に向かうようだ。
外套を翻しながら作業場を出て行く彼の背中を見送って、僕はヘンゼルさんに尋ねた。
「僕はどうしましょう?」
「イオちゃんは……」
ヘンゼルさんは僕を見た。
「悪いけど、しばらくカウンターの方にいてもらえる? アタシ、こっちの面倒を見ないといけないから」
「分かりました」
本当は着替えたかったんだけど、状況が状況だし仕方ないか。
僕は通用口に引き返し、ギルドカウンターの方に戻った。
ところで……こうしてカウンターに立ったはいいけど、何をすればいいんだろう。
冒険者相手に仕事の斡旋をしたり買取業務をしたりすることは、毎日ヘンゼルさんを見てたから何となくは分かるけど。
特に買取査定とか、僕の独断で勝手に進めて良いものなんだろうか。
「すいません、買取をお願いします」
考えている傍から依頼が来た。
……考えていても始まらないか。僕の裁量で何とかしよう。
「はい。品物は何でしょう?」
僕は傾いた眼鏡の位置を直して、精一杯の営業スマイルを浮かべた。
──今日は、忙しくなりそうだ。




