第24話 VSラージトード
グワッ……
あれだけうるさかったラージトードの泣き声がぴたりと止んだ。
アシュレイさんは剣を振りかぶり、標的のラージトードに肉薄する。
剣を一閃。アシュレイさんが繰り出した一撃は、ラージトードの喉元を深々と切り裂いた。
ラージトードがばしゃんと水飛沫を立てて水の中に沈む。
それを見てまるで怒ったかのように、周囲にいたラージトードが一斉にアシュレイさんへと殺到した。
口を開き、舌を繰り出してアシュレイさんの腕や足を捕まえようとする。
アシュレイさんはそれを剣を振るって牽制し、絡み付いてきた舌は容赦なく斬り飛ばした。
僕は剣を身体の前で構えながら、アシュレイさんの背後に立った。
右斜め前にいるラージトードから、舌が繰り出される。
それは、僕の顔の脇すれすれの位置を掠めていった。
僕は初めて敵意を向けられたことに目を丸くして身を強張らせた。
ダンジョン調査の時も、ラーシュさんたちが前に出てこちらにまでは魔物の攻撃は飛んでこなかったというのに。
これが冒険者が日頃から味わっている感覚なのか。
僕は冒険者になれそうにない。腹の底から涌き出てくる恐怖の感覚に、身震いした。
「ひ、」
「離れるな。何かあった時に助けることができなくなる」
ラージトードを1匹斬り捨てながら、アシュレイさんは冷静に言う。
そんなことを言われても、怖いものは怖いのだから仕方がない。
「掴まれてもすぐに飲み込まれるわけじゃない。パニックになったりしなければ大丈夫だ」
伸びてきた舌を左腕で絡め取り、ぐっと強く引きながら剣で断ち切るアシュレイさん。
舌を切られて動きを止めたラージトードの腹に、一撃を見舞う。
べしゃっと血を撒き散らして、ラージトードは仰向けにひっくり返った。
「無駄に数が多いな」
続けて別の1匹を切り伏せて、アシュレイさんは頭上に剣を掲げた。
くるくると流れる動作で剣を回転させ、横一文字に大きく振るった。
生じた衝撃波が周囲のラージトードをいっぺんに薙ぎ飛ばす。風が巻き起こり、アシュレイさんの外套をぶわりと大きく靡かせた。
「去ね!」
危険を察知したのだろうか。遠くにいたラージトードが、次々と泉を離れて森の奥へと姿を消していく。
それでも、僕たちの周囲にいるラージトードの数はまだまだ多い。
「ウォーターウェーブ!」
アシュレイさんが魔法を放つ。
足下の水を巻き上げた彼の魔法は、巨大な津波を起こして眼前のラージトードたちを一気に押し流した。
ゴアア、と威嚇の声を発してアシュレイさんめがけて跳躍するラージトード。
それを、アシュレイさんは剣の一突きで仕留めた。
ラージトードの巨体がばしゃんと水面を叩く。
アシュレイさんが走る。
口を大きく開いたラージトードの喉に剣を突き入れ、胴体を縦に斬り下ろす。
どばっと溢れ出る内臓。ラージトードはくたりと身体を横倒しにして動かなくなった。
森と水の匂いに、濃い血の臭いが混ざる。
ようやくアシュレイさんを脅威と察したのか、まだ無事なラージトードが1匹、また1匹と泉を離れて逃げていく。
逃げるならもっと早くからそうしてほしかったよ。
まあ、魔物とはいえ蛙のおつむで物事を考えろと言う方が無茶か。
全てのラージトードが逃げていくのに、大した時間は要さなかった。
やっと緊張から解放された僕は、剣を持ったままその場にへたりと座り込んだ。
尻に滲みる水が冷たい。
「……ようやくいなくなったか」
アシュレイさんはラージトードが逃げて行った森の奥に目を向けて、ふぅと息をついた。
最初に仕留めた1匹──鑑定結果で人喰いと出たラージトードの元へと足を運ぶ。
前足を掴んでごろりと仰向けにひっくり返し、腹の状態を確認した。
「時間がない。急いでラニーニャに運んで解体してもらおう」
「……この場で腹を開くことはできないんですか?」
「中身を傷付ける可能性があるからな」
確かに、アシュレイさんの剣だと中身ごとぶった切ってしまいそうだ。
かといって僕の剣だと、負荷に耐えられず折れる可能性がある。
……これ、僕よりもシークさんが同行した方が良かったんじゃないか?
「戻るぞ」
アシュレイさんは剣を背中の鞘に戻し、懐から長いロープを取り出してラージトードを括り始めた。
……こういう時、圧縮魔法があれば便利だったんだけどな。
僕はゆっくりと立ち上がり、ロープ掛けを手伝いするべくアシュレイさんの傍に近寄った。
圧縮魔法とは、文字通り物体を圧縮するための魔法である。圧縮した物体は任意で元の大きさに戻すことができるため、こういう大きな荷物を運ぶ時に重宝するのだ。
世間には同等の効果を持つ鞄等が存在してはいるが、誰もがそれを持っているというわけではない。あれば便利だとは思うのだが。
僕たちは2人で協力して、ラージトードを運びやすいように縛り上げた。
思っていたよりも早く事が片付いて本当に良かったよ。




