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第18話 人との繋がり

「……そうですか……それは残念でしたねぇ……」

 僕から鞘を受け取りながら、ロウェンさんは言った。

 革細工ギルドにて。借り物の鞘を返しに訪れた僕にダンジョン調査の武勇伝を、とせがむロウェンさんに話を聞かせたら、返ってきた言葉がそれだったのだ。

「……生息している魔物がスライムでなければ……イオさんの御活躍の場がもっとあったのでしょうが……」

「いやいや。十分ですよ、僕は冒険者ではありませんので」

 ただの鑑定士が魔物をばたばたと薙ぎ倒していく活躍劇。

 それは何処の小説の話ですか、と言いたくなる。

 何事もほどほどに、身の丈程度の話が1番である。

 ──と、忘れるところだった。

 僕は一瞬だけ自分の足下に視線を落とし、ロウェンさんに頭を下げた。

「そういえば、ナンナさんからお聞きしましたよ。靴を仕立てて下さったそうで……ありがとうございました」

「……いえいえ……履き心地は如何でしたか? 何分2日で仕立てた品なので……何かしら不備があってはならないと思っていたのですが……」

「特に問題はありませんでした。履きやすい靴でしたよ」

 本当に2日で仕立てた靴なのかと思えるほどの出来栄えだった。

 服もそうだ。普段着にしている服よりも着やすくて、肌触りの良さが心地良い一品だった。

 これがもう少し地味なデザインだったら、旅装束とは言わずに普段着として愛用したのだけれど。

 何とも勿体無い、残念な話である。

「今度、普段使いできる靴を注文させてもらおうかな」

「……御注文ですか……歓迎しますよ……イオさんの御依頼でしたら、いつでも……」

 ロウェンさんはにこりと微笑んで、カウンターの陰から分厚いカタログを取り出した。

 なめし革のサンプルが貼り付けてある、いわゆる見本帳である。

「シープの革……いえ、ワイルドゴートも捨て難いですね……」

「あの、今注文するわけじゃないですよ」

 何とも気の早い話だ。

 ロウェンさんはふふっと肩を揺らして、カタログをそっと閉じた。

「……構想は、早いうちに練っておくに越したことはないのですよ……いつ御注文を頂いても良いように……」

 傾いた眼鏡の位置を直して、彼は僕の顔をじっと見つめた。

「最高の一品を、作らせて頂きますので……御注文、お待ちしていますね……」


「そうか。剣を使う機会はなかったか。けどまあ、備えあれば憂いなしって言うしな」

 ヴォスライさんは僕が手にした剣を見つめて、残念そうに肩を竦めた。

 剣の使い心地を教えてほしいと言われていたことを思い出し、革細工ギルドに行ったついでに鍛冶ギルドにも顔を出したのだ。

「使う機会はありませんでしたが、軽いお陰で持ち運びに苦は感じませんでした。それが僕から報告できる唯一の感想になったのは申し訳ないですが」

「いや、いいってことよ。ありがとな、律儀に報告に来てくれて」

 それで、とヴォスライさんは言った。

「で、その剣はどうすんだ? ダンジョン調査が終わった今、使い道もないんだろ?」

「……そうですね」

 僕は剣を見て、頷いた。

 元々は今回のダンジョン調査のために工面した品だ。任務を果たした今となっては、使い道がないと言っていい。

 鑑定士が剣を持つ場面なんて、日常生活を送っている限りはないような気がする。

 あるとすれば、解体の時に人手が足りなくて呼ばれた時くらいだが……いやいや。

 シークさんは1人でも仕事をやろうとする人だ。刃物の扱いの素人なんてお呼びじゃないと言うに決まっている。

「何だったら、うちに預けとくか?」

 ヴォスライさんの思いがけない申し出に、僕は目を瞬かせた。

「いいんですか?」

「うちで売った剣だしな。1本くらいなら保管場所くらい何とでもなる。そうしとけ」

 冒険者ギルドで何かあった時、家に取りに帰るより楽だろ?

 言われて、僕は勢いに押される形で頷いていた。

 冒険者ギルドで何かあった時なんて、想像したくもないけれど。

 僕はヴォスライさんに剣を預けた。

「それじゃ、預かっとくからな。必要な時は出してやるから気軽に言えよ」

「ありがとうございます」

 僕から預かった剣を持ち、ヴォスライさんはギルドの奥に行った。

「もちろん、新しい注文も待ってるからな! 最高の一品を揃えて待っていてやるぜ!」

 豪快に笑う彼につられて、僕も口の端から笑みを零していた。

 ──持つべきものは人との繋がりだ。こうして困った時に助けてくれる人がいるから、僕は日々を安心して暮らすことができているのだ。

 僕は、今の暮らしが好きだ。この暮らしを守るためにも、出会った人との繋がりは大切にしていこう。

 ヴォスライさんが姿を消したギルドの奥に目を向けて、僕はそう心密かに思ったのだった。

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