第17話 凱旋
僕たちがラニーニャの街に戻った時、空は茜色に染まっていた。
何とか、日暮れの前に戻ることができたようだ。
賑わう雑踏の中を、僕たちは冒険者ギルドに向かって歩いていく。
「また来てね。待ってるわよ」
冒険者ギルドに到着すると、ヘンゼルさんの声が中から聞こえてきた。
……まさかこんなに早く調査が終わるなんて思っていないだろうから、驚くかな?
「ただいま戻りました」
僕は冒険者ギルドの玄関口を通り、カウンターにいるヘンゼルさんに声を掛けた。
ヘンゼルさんは一瞬ぽかんとした顔をして僕のことを見つめたが、すぐに普段通りの調子に戻り、満面の笑顔で僕を出迎えてくれた。
「あら、イオちゃんお帰り。早かったのねぇ」
カウンターから出てきて、僕の全身を品定めするように見つめる。
「怪我とかしてない?」
「ラーシュさんたちが護って下さいましたので、ぴんぴんしてますよ」
「良かったぁ」
ギルドの中に入ってきたラーシュさんたちの方に向き直り、ヘンゼルさんはぺこりと頭を下げた。
「貴方たちのお陰で、イオちゃんも無事にお勤めを果たせたわ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ依頼を引き受けて下さって感謝の念が尽きませんよ。本当にありがとうございます」
ラーシュさんたちも揃って頭を下げた。
何とも微笑ましい光景だ。
さて、冒険者としての僕の務めは此処までだが、冒険者ギルドの鑑定士としての仕事はまだ残っている。
僕はラーシュさんに話を切り出した。
「ラーシュさん、ダンジョンで手に入れた肝はどうします?」
「あら、ダンジョン産の素材? 何かいい物は採れたの?」
ぱっと顔を輝かせるヘンゼルさんに、僕はダンジョンで手に入れたフレッシュミートの肝の話をした。
僕の話を聞いて、へぇ、と声を漏らすヘンゼルさん。
「また珍しいものを採ってきたのね。フレッシュミートの肝っていったら錬金薬の素材よ」
流石ヘンゼルさんだ。フレッシュミートの素材のことは知っているようだ。
「なかなか手に入らない素材だから、錬金術ギルドが欲しがるわよ。買取希望出すなら処理しちゃうけど、どうする?」
無論、錬金術に明るいなら買取には出さずに自分で使うという選択肢もラーシュさんたちにはある。
そこは、素材を持っているラーシュさんたちに選択権がある。僕たち冒険者ギルドが決めることではない。
ラーシュさんはバックパックからフレッシュミートの肝を取り出して、ルカさんとロイドさんと顔を見合わせ頷いた後、それをカウンターの上に置いた。
「私たちが持っていても使い道がないので……売りに出します。処理をお願いできますか」
「オッケー」
鼻歌を歌いながら、ヘンゼルさんはカウンターの裏側へ回った。
ラーシュさんは僕の方に向き直って、右手を差し出してきた。
「イオさん。貴方と調査ができて良かったです。お世話になりました」
「こちらこそ」
僕はラーシュさんの手を握り返した。
僕と大して年齢が変わらないはずのラーシュさんの掌は、不思議と大きく温かく、まるで父親の掌のように感じられた。
これからも、彼らは僕たちのような一般人を護りながら世界を駆ける冒険者として生きていくことだろう。
「また調査依頼が来たら、お伺いします。その時はまた宜しくお願いしますね」
「え……」
僕の笑顔が一瞬だけひくついた。
僕としては、ダンジョン調査はもうお腹一杯なんだけど……
なんて、言えるわけがない。
あはは、と誤魔化し笑いをして、僕はラーシュさんの手を離した。
「それじゃ、買取ね。フレッシュミートの肝がひとつ。傷みもなく鮮度としては十分だから、色を付けて買い取らせてもらうわ。金額は……」
ヘンゼルさんの声に耳を傾けながら、僕はギルドの外に目を向けた。
ああ、今日も冒険者ギルドは平和だ。
空の茜色を見つめながら、僕は背筋をぐっと伸ばしたのだった。




