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第15話 スライム祭

 ダンジョンには層がある。

 一般的にダンジョンは下層に行くほど強力な魔物が出現するようになるらしい。

 此処も例に漏れず、階段で下に降りれば降りるほど厄介な能力を持つスライムがお目見えする機会が増えていった。

「鑑定眼」

 ラーシュさんの陰に隠れながら、僕は鑑定魔法を放つ。

 魔法は眼前のスライムを捕捉し、鑑定結果を僕に伝えてきた。


『【ポイズンアメーバ】

 体内に毒素を取り込んだスライム。その毒素は触れたものを腐食させる』


「ポイズンアメーバですね」

 スライムの種類を伝えると、ラーシュさんは眉間に皺を寄せて腰の剣を抜いた。

「ポイズンアメーバは悪食です。何でも見境なく捕食しようとする。こいつに何度剣を駄目にされたことか」

 ポイズンアメーバの毒素が、剣を腐食させて駄目にしてしまうらしい。

 流石、スライム。脅威が上がっていくほど、武器での討伐が困難になっていく。

 飛び掛かられないように距離を置きながら、ラーシュさんはルカさんに合図を送った。

 ルカさんが魔法を詠唱する。

 杖の先端から生まれた炎の塊が、ポイズンアメーバに降り注ぐ。

 強力な炎の勢いで場の空気が焼ける。塵が焦げた臭いが鼻につき、僕は手の甲で鼻頭を擦った。

 炎が消えると、ポイズンアメーバは蒸発してしまったようで影も形も残ってはいなかった。

「……ふう」

 杖を下ろし、一息つくルカさん。

 戦闘では出番なしということで荷物の運搬係を買って出たロイドさんが、背負っていたバックパックの中から水筒を取り出し、彼女に渡した。

「ありがと」

 水で喉を潤し、ルカさんは水筒をロイドさんに返却すると大きく伸びをした。

「此処ってダンジョンのどの辺りなのかしら。下層ってまだあるのかな」

「結構深いところまで降りてきたからね」

 剣を鞘に戻し、ラーシュさんは言った。

「小規模のダンジョンだったら、そろそろ主に出会っていてもおかしくない」

「主って……やっぱりスライム?」

「その可能性は高いだろうね」

「うーん」

 ルカさんは浮かない顔をした。

「今までは雑魚だったからいいけど、主が相手だと私だけじゃ荷が重いわ。援護してよね」

「それはもちろんだよ」

 ランタンの火種の具合を確認し、ラーシュさんはゆっくりと歩みを再開する。

 僕を含めた他の者も、それに続いていく。

 ──その歩みが、幾分もせずに止まった。

 通路の果てから、水に濡れた衣服を引き摺るような音が近付いてきたのだ。

 ずずず、ずずず、ずず。

 ねりねりと肉を捏ねるような音も次第に大きくなっていく。

 ラーシュさんは険しい顔をして腰の剣を抜くと、僕たちを庇うように通路の中央に立って構えた。

 ……何か嫌な予感がする。

 僕は鑑定魔法はすぐに放てるように心の中で準備しながら、ルカさんに寄り添った。

 ハルバードを構えるロイドさん。ルカさんは通路の果てをじっと見据えて、意識を集中させている。

 そうして身構えている僕たちの前に、それは通路の果てから姿を現した。

 通路目一杯に広がった生肉のボディ。薄く漂ってくる、魚が腐ったような嫌な臭い。

 巨大な肉のスライムが、音の正体だった。

「うぇっ!」

 僕は思わず声を上げた。眉間にも皺が寄ってしまう。

「これは……」

 こういう魔物を見るのは初めてなのか、ラーシュさんが驚きの声を上げている。

 面食らってる場合じゃない、自分の役目は果たさないと。

 僕は巨大スライムを見据えて、鑑定魔法を放った。

「鑑定眼!」


『【フレッシュミート】

 動物や魔物の死肉から誕生したスライム。他の生物を取り込んで成長する身体は、生肉と同等の弾力を持つ』


 生肉と同等……ってことは、このスライムには武器が通用するってことか?

 何にせよ、僕だけで考えていても分からないことに変わりはない。

 鑑定結果を伝えると、ラーシュさんは口元に薄く笑みを浮かべた。

「武器が通用しそうなら、ルカだけに負担を掛けずに済みます。ロイド、ルカとイオさんの方には近付けさせるなよ!」

「やっと出番が来たか! 任せておけ!」

 バックパックをその辺に放り投げ、ロイドさんがハルバードを振りかぶりながら走り出す。

 一呼吸分間を置いて同様に駆け出すラーシュさん。

 巨大スライムとの戦いの幕が、切って落とされた。

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