第14話 ベジタブルサンド
ラーシュさん曰く、このダンジョンは他のダンジョンと比較して難易度が低そうだということだった。
生息している魔物といえば、スライム、スライム、スライムのオンパレード。
まあ、鑑定してみたら普通のスライムばかりではなく、亜種が紛れていたりもしたけれど。
此処まで魔物の種類が偏っていると、攻略するのも簡単になってくるらしい。
確かに、魔道士がいれば事足りそうな雰囲気がある。このダンジョンは。
それでも、僕からしてみればスライムは立派な脅威だ。
せっかく用意した剣、役に立ちそうにないからね。
今のところ、出てきた魔物は全てルカさんの魔法の一撃で倒されている。
ロイドさんは自分の出番がないと言って完全に傍観者になっていた。ラーシュさんも同様だ。
とはいっても、僕をガードするという役目が消えたわけではない。気は抜いても油断はしないのは流石といったところか。
僕は出てきたスライムに鑑定魔法を使う役目に徹していた。
スライムは基本的に素材が採れない魔物だ。倒した後の死骸に鑑定魔法を使ったところで単なるスライムの死骸と鑑定結果が出るだけだし、魔法を使うだけ無駄なのである。
仕事としては楽でいいが、単純作業で若干飽きが来る。
平和なのは良いんだけどね。
平和だと認識すると、小腹が空いてきた。
くぅ、と鳴った僕の腹の虫の音に、ラーシュさんは苦笑した。
「そろそろ昼時ですかね」
「すみません。緊張感を台無しにしたようで」
「構いませんよ。私もそろそろ休憩にしようかなと思っていたところでしたので」
傍らの2人に尋ねると、彼らも空腹になったとのことだった。
周辺には魔物の気配もないし丁度良いということで、通路のど真ん中ではあるが此処で休憩しようということになった。
ランタンを置き、その周囲に円陣を組むように4人で座る。
ルカさんが背負っていたバックパックを下ろし、中から小さな紙包みを4つ取り出した。
包みを開くと、中から出てきたのは黒パンで作ったベジタブルサンドだった。茹でた卵が挟んであるのが嬉しい。
ダンジョンで摂る食事といえば日持ちのする携帯食糧というイメージが強いのだが、どうやら持参した食事には大分気を遣ってくれたようである。
「簡単な食事ですみません」
「いえいえ、ありがとうございます。僕の分まで用意して頂いて」
「では、頂きましょう」
いただきます、と4人で唱和して、僕はベジタブルサンドをひと口齧った。
これは……粒マスタードとマヨネーズを混ぜた特製ソースを使っているらしい。程好い刺激のある味が卵の黄身と絶妙にマッチしている。
レタスと胡瓜もシャキシャキしていて歯応えがあって美味しい。トマトの瑞々しさが口の中を適度に潤してくれるので、パンでぱさぱさに渇くといったこともなく食べ進めることができる。
ダンジョンで何が1番大変かといったら、やはり食事の準備らしい。大きなダンジョンに潜る時ほど持っていく食糧で荷物がかさばるのだとラーシュさんはサンドを食べながら僕に語ってくれた。
今回はそこまで長期に亘って潜ることを想定していないので、持参する食事の量は少量で済んだらしいのだが。
「底まで潜るのか? ラーシュ」
手に付いたパンの粉をはたきながら、ラーシュさんに尋ねるロイドさん。
ラーシュさんは頷きながらサンドをひと齧り。
「ダンジョンの全体構造を把握するのも目的のひとつだからね。可能な限り最深部まで行こうと思ってるよ」
「スライムしかいないダンジョンだとすると、攻略はルカの魔法頼りになりそうだな」
「あまり深いダンジョンじゃなければいいけれど」
ふう、と息を吐いて肩の力を抜くルカさん。
「魔力は有限だから、しなくて済みそうな戦闘はなるべく避けたいわ」
魔法は魔力が枯渇すれば当然使えなくなる。これは鑑定士も同様だ。
まあ、僕の場合は魔力切れを起こしても大した問題にならないからいいが、ルカさんの場合はそうもいかない。
彼女の魔法はパーティの命綱を握っているのだ。肝心なところで魔法が使えなくなることだけは避けたい。
「そうだね。スライムはそこまで攻撃的な魔物じゃないし、今後はやり過ごせそうならやり過ごして進んでいこうか」
ラーシュさんはサンドを完食して、ゆっくりと立ち上がった。
「魔力もそうだけど、時間も有限だ。休憩はこのくらいにして、先に進もう」
何とか日暮れまでには最深部に辿り着きたい、と言って、ランタンを持ち上げた。
1日で制覇できる規模のダンジョンなのかどうかは今のところは分からないが、その心積もりで進んでいきたいということなのだろう。
食事を終えた僕たちは、先に進むべくその場を立ち上がった。




