第13話 いざダンジョンへ
大小様々な岩がごろごろと転がっている平原のとある一角。
そこに、僕たちが潜るダンジョンはあった。
岩が幾つも重なってできた、人間がやっと1人通れるかどうかの通り道。そこが入口になっているようだ。
いよいよ、なんだな。
僕は小さく深呼吸をして、腰の鞘から剣を抜いた。
軽いはずの剣が、何故かずしりと指に重みを加えてくる。
自分で自覚している以上に、僕は緊張しているらしい。
ラーシュさんは笑って、僕の肩に手を置いた。
「そんなに構えなくても、イオさんは私たちでお守りしますから」
「私の傍から離れないようにしてね」
ルカさんが杖を構えながら僕の隣に立つ。
確かに前線に出るであろうラーシュさんやロイドさんの傍にいて戦闘の邪魔になるよりは、後方支援のルカさんの傍にいた方がいいか。
女性に護られるというのも、複雑な気分であるが。
「では、行きましょう」
携帯用のランタンに火を入れて、ラーシュさんはダンジョンの内部へと足を踏み入れる。
その後ろをロイドさんが、更にその後ろを僕が、ルカさんが殿を務める形で続いた。
ダンジョンの内部は、ごつごつとした岩肌が剥き出しの洞窟のような造りをしていた。
あちこちに発光性の苔のような植物が生えており、視界を不完全にだが照らしている。
空気は乾燥しており、何処となく砂っぽい。
鼻がむず痒くなり、僕はすんと鼻を鳴らした。
「……乾いてますね」
「近くに水場がないのでしょう。典型的なダンジョンの構造ですね」
壁を指先で軽く撫で、ラーシュさんは周囲を仰ぎ見た。
「進みましょう」
場の観察もそこそこに、彼は先へと進んでいく。
通路は1本道になっており、道に迷うといったことは現状なさそうだった。
曲がり角で一旦立ち止まり、先の様子を窺って歩みを再開し。
そうして進んでいく僕たちの前に、遂にそれは姿を現した。
ぬとぬととした半透明のボディ。溶けかけたプリンのような出で立ち。
スライムである。
「……スライムか」
ロイドさんが眉間の皺を深くして、それを見つめた。
スライムは一般的に物理的な衝撃に対する耐性が高いと言われている。決して不可能ではないが、普通の武器で討伐するのは困難を極める魔物なのである。
あのゼリーのような弾力のある身体が衝撃を吸収してしまうからというのが定説だが、実際のところはどうなんだろう。
と、悠長に見ている場合じゃなかった。僕の仕事をしないと。
僕はスライムを視界の中央に捉えて、魔法を発動させた。
「鑑定眼」
ばーっと現れる魔道文字。それを一読し、僕は頷いた。
うん。何の特筆もない普通のスライムだ。
「普通のスライムですね」
「ルカ」
ラーシュさんがルカさんに声を掛ける。
ルカさんは頷くと、杖を構えて意識を集中させ始めた。
杖の先端に灯る、茜色の光。
「ファイアアロー」
魔法が発動する。
矢のように伸びた光は炎を纏いながら、スライムの身体の中心を抉るように貫いた。
スライムを倒すには、武器を用いるよりも魔法を使った方が効率が良い。特に炎の魔法は効果覿面で、ゼリーのボディを一瞬で蒸発させることができるのだ。
スライムは身体に空いた穴から崩れるようにふにゃりと潰れ、床の上の水溜まりのように広がった。
どうやら無事に倒せたようだ。
「奥の方にまだまだいるはず。気を引き締めて行きましょう」
ラーシュさんはスライムの死骸をまたいで奥へと進んでいく。
僕たちはそれに続いて、止めていた歩みを再開した。




