第104話 学者の帰還
日が大分西に傾いてきた頃。教会に搬送されていたフェルディユさんが冒険者ギルドに戻ってきた。
法衣に空いている穴が、魔族から受けた攻撃の生々しさを物語っている。
大丈夫なのかと問いかけるヘンゼルさんに、彼女は笑いながら傷は完治していると答えた。
エルフは細身で繊細なイメージがあるのだが、流石王都から旅をしてきただけあってそれなりに逞しいようだ。
「調査も終わりましたので、王都に戻ろうと思います」
深々と頭を下げるフェルディユさん。
「この度は協力して下さってありがとうございました」
「お役に立てたようで何よりよ」
傍らに立っている僕の姿を見つけ、彼女は僕に対しても頭を下げた。
「イオさん、ありがとうございました。お世話になりました」
「いえ……大した役には立ちませんでしたが」
実際、活躍したのは僕よりもスノウの方だと思う。
そのスノウは、僕の服の裾を掴んでフェルディユさんのことを見つめていた。
すっかり、街中では人型でいることを選んだようだ。
「いつか、王都の方にいらして下さい。色々御案内しますよ」
──そう言って、フェルディユさんは王都に向けて旅立っていった。
色々あったが、とりあえずいつもの冒険者ギルドに戻ったな。
……いや、そうでもないか。
門から出てきた魔物の解体作業に追われて解体場の方は今も鍋をひっくり返したみたいに忙しいらしいし。
因みに、緊急依頼を受注した冒険者たちには、任務達成の報酬の他にこれらの魔物の買取代金も支払われるのだそう。
見たこともないような魔物の素材を手に入れたこともあって、随分儲かったんだな、冒険者ギルド。
そして毎度お馴染みというか、僕には出張ボーナスが出るそうだ。
ジャド君にも言われたし、これで魔法書でも買おうかな。
色々と考えていると、服の裾を引っ張られる感触が。
見ると、スノウがじっと僕のことを見上げていた。
「イオ、魔法を撃つお仕事はもうおしまい?」
魔物との戦いをお仕事、ね。
僕はスノウの頭を撫でて、言った。
「うん、おしまい。後はいつもの通り、此処で鑑定のお仕事をするんだよ」
「スノウ、もっと一杯魔法撃てるよー」
元気だなぁ、スノウは。
ふっと笑って、僕はカウンターの裏手に回った。
「手伝いますよ、ヘンゼルさん」
「そう? それじゃ、お願いしようかしら」
冒険者たちに支払う報酬金の用意を手伝ってくれと言われ、僕は金庫の扉を開いた。
これこれ、この雰囲気だよ。
やっぱり僕にとっては、冒険者ギルドで平穏に過ごす仕事が1番だ。
金庫から取り出した革袋の中身を確認しながら、僕はギルドの外に目を向けて肩の力を抜いたのだった。




