第103話 ジャドの懸念
門の周囲に残っていた魔物は、冒険者たちの手によって残らず駆逐された。
フェルディユさんは駆けつけた魔道士に回復魔法を掛けられて一命は取り留めたが、完治には程遠く、教会へと搬送された。
僕はスノウを連れて冒険者ギルドに戻り、ヘンゼルさんに一連の出来事を説明した。
フェルディユさんに重傷を負わせた女のことも含めて、全て。
僕の話を聞き終えたヘンゼルさんは、気難しい顔をしたまま、僕にひとつの話をした。
「それは、魔族よ」
「魔族?」
魔族とは亜人種のひとつで、独自の文化と国を持った種族なのだそうだ。
魔族に関する資料や文献は殆どなく、そもそも彼らが人間の前に姿を現すこと自体が稀なので、多くの謎に包まれている存在なのだそう。
分かっていることといえば、彼らは魔物のように人間を敵視していることくらいなのだとか。
あの女が本当に魔族なのだとしたら、フェルディユさんを襲った理由も一応納得はできる。
でも……それだけじゃない気がするんだ。
彼女は「計画が」と言っていた。
フェルディユさんが門を破壊したから彼女はフェルディユさんを手に掛けた、そういう見方もできる。
ひょっとして──彼女をどうにかしない限り、近いうちに再度門が何処かに開く可能性があるのではなかろうか。
それは可能な限り阻止しないといけない。
近隣の街の冒険者ギルドにこの話をして、警戒態勢を取ってもらうことは可能なのだろうか。
ヘンゼルさんにそう話を持ちかけると、それは一応は可能だという答えが返ってきた。
ただ、すぐにそうするのは難しいとのこと。
「手紙を出すにしても使いを出すにしても、ある程度の時間はかかるわ」
それでも善処はすると言ってくれた。
「イオちゃん、知らせてくれてありがとう。後はアタシがやるわ、貴方は鑑定士としてのお仕事に戻ってちょうだい」
ヘンゼルさんはにこりと微笑んで、僕に2階に戻るように言った。
確かに、今の僕がこれ以上できることはないな。
僕は言われた通りに、仕事場へと戻った。
仕事場ではジャド君が、大量の鑑定依頼品を前に眉間に皺を寄せていた。
僕が外に出ていたから、鑑定士の仕事を一手に引き受ける羽目になったんだな。
何だかごめん。
「ただいま戻りました」
「……あ、お帰りなさい先輩。出張はどうでした?」
僕はジャド君に、フェルディユさんと一緒にいた間に起きた出来事を話して聞かせた。
ふむ、と微妙に考え込むような仕草をして、ジャド君が言う。
「先輩、身を守る手段をひとつくらいは持っておいた方がいいんじゃないですか」
「……へ?」
唐突に何を言い出すのだろう。
「ほら、先輩の出張先っていつも魔物がいたり騒動が起きたりしてるじゃないですか。今回は魔族が出てきたっていうし……今のままだと、いつか絶対大怪我しますよ」
「……その、身を守る手段っていうのは」
「例えば、魔法とか……武術とか」
……確かに行く先々で何かが起きてることは否定しないけど……
魔法、ねぇ……
昔独学で勉強しようとして挫折したんだよな。
何とかものにできたのが鑑定魔法だけだったから、鑑定士の道を選んだってエピソードがあるくらいだし。
スノウがいるから自衛手段はなくてもいいやって思ってたけど、あった方がいいものなのか?
「冒険者さんにお願いして魔法を教えてもらうとか……とにかく、何か考えた方がいいですよ」
「……はあ」
生返事を返して、僕は後頭部を掻いた。
魔法を誰かに教わる……か。
そう上手いこと教えてくれる人が見つかるとは思えないけど、少し考えてみるか。
怪我はしたくないしね。




