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永遠の月所持者として

「.......エターナルムーン?.....世界を救う.........??」


 頭の情報処理が追いつかず、脳がショートした。

ヴァージーはそれを見越していたようで、話を進める。


「紅葉様の黒い痣、そして薔薇の刻印。それこそが私達の求めていたものなのです」


「セイアッド......魔法使い集めて黒獣を倒す奴らが求めてるってことは」


「はい、お察しの通りです」


 .......実はヴァージーにセイアッドを名乗られた時には、この薔薇が魔法のものであることには勘づいていた。だが、


「でも待ってくれ。俺はただの高校生だ。兵隊じゃない。魔法を持ってても黒獣と戦える訳でもないし、世界を救うなんてもっとあり得ない」


 現状、魔法を扱うどころか黒い薔薇に体を乗っ取られ(そうになっ)ていた紅葉だ。

 黒獣に遭遇した時も、逃げることすらできずに殺されてしまった。

 その紅葉へ急に、魔法を使って黒獣を倒す部隊に世界を救ってもらいたい?また死ににいけと言うのか。


「いいえ。貴方はもう普通の高校生....いや、普通の魔法使いですらありません」


「どういうことだよ......」


「黒獣討伐の兵士を始めとする魔法使いは、【ルナ】と呼ばれるエネルギーを体に秘めています。言わば魔力です。私や貴方の体にも秘められています」


 何気なく薔薇の刻印がある左胸を抑える。ここで食ってかかっても仕方がないので黙って話を聞くことにした。


「このルナは使えば無くなり魔法が発動できなくなります。ルナは扱う者の力量によって変わり、やはり鍛えた者ほど強大なルナを長時間使うことができます。ですが、どれだけ鍛えてもルナは有限。普通の魔法使いはいくら長時間ルナを使えようとも無限ではありません」


「普通なら、か」


「はい。有限であるハズのルナが無限に体から湧き続ける。ルナの使用量に制限が無い、魔法使いの異端者が【永遠の月(エターナルムーン)】、貴方なのです」


「エターナルムーン......!?」


「そうです。枯渇することのないルナを持つ永遠の月。我々の少量のルナでは成し得なかったことを可能にする。例えば、結界ドームはご存知ですね?」


「あ、ああ。魔法で作った黒獣を寄せ付けないバリアのことだろ」


 窓から見える。空を覆う薄紫色の結界だ。


「我々のルナでは結界を張るにも限界があります。結界の下で暮らすことが叶わず未だ黒獣に怯える街もあるでしょう。そこで貴方のお力添えが必要なのです」


「いや、でも、本当に永遠の月ってのが俺に.....?」


「いまひとつ信じられないようですね。無理もありません。ですが、もう既に永遠の月の効果が現れているのですよ。まず一つ目。貴方は黒獣に襲われた際、瀕死の傷を負ったそうですね」


 医師から聞きました、と付け加えた。


「ああ。瀕死と言うか死んだとすら思ったさ。体に風穴ができてた気がする」


「なのに傷が無くなっている。当然完治するハズのない傷が。ルナには体を治癒する効果もありますが、切り傷を塞ぐ程度のものです。まあ、これまた永遠の月の莫大な量のルナならば話は別。体がコナゴナにならない限りは大丈夫でしょう」


コナゴナにならない限りは.....つまり、黒獣に食われていたら月夜がいても死んでいたのか。


「二つ目はわかるぞ。痣のことだろ」


「......半分正解、半分ハズレです。一つ目の効果と違い、貴方にメリットはありません」


「デメリットだってのは大体予想してたな。それで、なんなんだ?」


「先程治した黒い痣。あの黒はどこかで見たことはないですか?」


「黒......」


 衿から痣の根源である薔薇を見る。この禍々しい黒は


「言い換えましょう。黒い痣に覆われた貴方の体は何に見えましたか?」


 紅葉は答えを知っている、確信を持っての質問の変更だ。

この禍々しさを帯びる黒は間違いなく


「黒獣か......?」


 自分でもわからないが声が震えた。ワンテンポ遅れてヴァージーは解説する。


永遠の月(エターナルムーン)。有限であるルナを無限に使えることはけして良いことばかりではありません」


「まず、ルナの膨張に耐えきれず、体が破壊されるケースです。単純に己の器の用量を大きく超えて、破裂してしまう。コップに入りきらない水が溢れ出すことと同じです」


「そして、心が破壊されるケース。得体の知れぬチカラが体に作用しているのです、当然心に迷いができます。弱った精神をルナに埋め尽くされ、体は持ち主のものではなくなります。自我を失った体は全身黒に塗り潰され、ただひたすらまわりの生物を喰らい、殺戮するでしょう」


「なんだよそれ......全身黒でまわりの奴を食う?それじゃあまるで」


「黒獣ですね。使い方を間違えるだけで、マウスすら黒獣と同等にしてしまう」


「じゃあ俺は!さっき黒獣に....化け物になり始めてたってことか!!?」


 上半身黒塗りだったことを思い出すと、寒気が走った。人間を食う化け物に、片足を突っ込んでいたことになるのか。

 実際に襲われたからこそわかる、黒獣の恐ろしさだ。


「落ち着いてください。黒い痣は、あくまで目安です。部分的に黒く染まることはありますでしょうが、全身が覆われることなど滅多に無いです。むしろ、正しい使い方であればルナも良薬となります」


「でもよ....!」


「大丈夫ですよ。現時点では黒獣化は進んでいません。それに私がここに来た理由。それは部隊への勧誘もありますが、紅葉様を保護するためでもあるのです」


「保護?」


「ルナの研究により、黒獣化を防ぐ方法は開発されつつあります。ルナに苦しむ人々を保護することもセイアッドの活動のひとつですからね」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、ヴァージーは部屋を出ていった。


『一週間後の退院後、紅葉様の意志を聞かせてください。私はそれまでこの街に滞在しています』


 自分が魔法使いの部隊に勧誘された。しかも自分は魔法使いの中でもかなりの異端者。.....無関係だと思っていたのだが。

 結界ドームの中で暮らす一般人の自分、外で黒獣と戦う魔法使い。

 空を覆う結界

 魔法使いと言われている親父

 幽体化した少女、月夜

 黒く不気味な薔薇を刻む自分

 これだけの要素がありながら、無関係だと思っていた。

 だけど、ヴァージーの勧誘を通してそう思うことはできなくなっていた。


(コウヨウ.....大丈夫?)

 

 部屋に紅葉以外いなくなったことを確認し、壁の向こうに隠れていた月夜が姿を現した。


「ん、ああ。ちょっとな」

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