7話 ...作れるかな、洞穴。
僕たちはサンダーバードに遭ったあの平野に再び戻ってきた。あの時は、その、色々とあったし...。
「よし、準備はいい?シャル。」
「はい!オーカ様の栄養分も補給済みです!」
「あ、あはは。じゃ、じゃあ行こっか。」
シャルの栄養源はともかく。前回、って言っても1時間前くらいだけどあの時の僕は情けなかったな。もうこれ以上シャルに情けない姿見せられないしな。少し頑張ってみるか。
「危なくなったらすぐに僕の事を呼ぶんだよ?シャルを失うのだけは、嫌だから。」
「は、はい...!」
目を輝かせて言うシャルは本当に癒されるなぁ。守りたい。この笑顔を。
「求めるのは探知、対価は我が力。暴き出せ、ディテクション・ソナー!」
瞬間、頭の中に平野全体の地図が頭に反映される。地形状態や地下状態、蝶(だと思う)のような弱い生命力でさえ今では強く感じる。まるで伝説の副船長に2年間、修行をしてもらったようだ。あれ?実際一年半だっけ?
ちなみに今使っている魔法はただ単に魔力がある限りの探知を行っているのだがある特定の、例えばそれこそサンダーバードだけを探したいというときは別の魔法もあるらしい。特定の探知条件に合った反応だけを示してくれる、使いどころによって分けた方がいい便利な魔法だ。
では何故、僕は広範囲であるディテクション・ソナーを使ったのか。それは――
「自分の実力が見たかったからだよ!」
よし、気を取り直して
「サンダーバードはどこだ?」
今度は意識を集中させて魔力を放つ。どうやらただ魔力を垂れ流してたらいいってもんじゃないらしい。そんな雑じゃなくてもっと意識を研ぎ澄ます。鳥のように視界を飛びまわせる感じで。
「こ、こんな感じかな。」
頭の中の地図がより鮮明になっていく。風の流れ、木の葉の擦れる音まで強く感じる。
...向こうに一つ、でかい気配を感じる。どうやらあれが目標のサンダーバードの様だ。
「よし、北の方にいるみたいだ。シャル、急ぐから...ごめん!」
僕は先に謝って、彼女の太ももと背中に手を回す。お嬢様だっこだ。
べ、別にしたかったわけじゃないし!? こっちの方が走りやすいからだし!?
「ひゃうっ!あ、あの重くない、ですか?」
少し涙目になって尋ねるシャル。重いっていうわけないよね。
「ううん、むしろ軽すぎるんじゃない?もっと食べないとね。」
まぁ、少々言葉足らずかも知らないけど僕の気持ちは伝わったかな?
「行くぞ!」
僕はシャルの体の事を考え、とりあえずスピードを落として走ることにした。
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「はぁ、はぁ、はぁ、お、オーカ様、はや、速すぎますううう、ばたん。」
「シャーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!!起きろおおおおおおおおお!!!」
最初はジョギング感覚で走っていたつもりだったがどうやら途中からスピードが出過ぎていたらしい。
「ごめんね、シャル。」
「い、いえ、大丈夫で、ええええ、ばたん。」
「シャーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!!起きろおおおおおおおおお!!!」
しまった。シャルがダウンだ。
とりあえず近くに洞穴でも、ってそんな簡単にあるわけないしなー。
「...作れるかな、洞穴。」
よし、やってみるか。
「求めるのは創造、対価は我が力。現れよ、イメージ・クリエーション!」
不自然にならないように地面を隆起させ、側面の一部に穴をあけた。即席のシェルターって感じかな。自分で作ったから中に魔物がいる心配もしなくていいし。とりあえずシャルは中に避難させておこう。
「シャル、気分が良くなるまでここから出ちゃだめだよ?必要なものは適当に作ってあるからね。」
「は、はい。すみません。」
「ううん、気にしないで。元はと言えば僕の不注意のせいだし。」
シャルの体の事を十分に考えていなかったし、しかもついシャルの前で走っちゃうし。幸いすぐに記憶を失ったようだから良かったけど。シャルもう一歩目でダウンしてたのかよ。
「じゃあ、行ってくる。」
「はい。」
気分が悪いのに強引に笑顔を向けてくれる。本当にごめん。
「じゃ。」
そう言い残し僕は洞穴(自作)を出た。
「よし、覚悟しろよ、雷野郎!」
全力で一歩を踏みしめたのであった。