5話 え?これはスマh...ってああああああ!!!
朝だ。
「ふわぁぁ。」
思わず欠伸が出てしまう。元の世界じゃこんな時間なら寝てたしな。欠伸が出ても当然である。
「くすっ。オーカ様も欠伸なんてされるのですね。」
不意にシャルにそう言われる。
「どういうこと?」
「いや、オーカ様も欠伸をするとはまだ人間だな~って!」
満面の笑みでこちらを見てくるが。まだ?まだって何!?いずれかは僕、人間じゃなくなるのかよ!?
「はは、ははは。ま、まぁ人間だよ、僕は。」
乾いた笑みしか出ない僕。かたや満面の笑みを浮かべるシャル。傍から見れば中々シュールである。
そんなこんなでギルド。この街には中央広場とギルド前の広場にある2つの時計塔しかない。だから時刻を把握するには少し不便だな。
時計塔を見ると、時刻は丁度6:00。うん、約束通りだね。
ギルドの前には少し眠たそうな受付係さんがいる。自分で決めたのになんで眠そうにしてるんだろう。
「すみません、待たせてしまって。」
「いえ!大丈夫ですよ!それでは詳細の説明に入らせていただきます!」
そう言って、受付係さんは一枚の資料と共に説明を始める。
「今回、皆さんがお受けになった依頼の対象モンスターはこちらです。」
そう言って資料を貰う。外見はよく空想に出てくる会長って感じだ。ポケ◯ンのサン◯ーみたいな外見にも似てるかも。でもこの資料、びっしり書いてあって1度に覚えられそうにないな。写真に撮っておくか。
そう思い僕はポケットからスマホを取り出し、写真を撮った。すると受付係さんは目を丸くしてこっちを見ている。どうしたんだろう?
「あの、どうかしましたか?」
「あ、あのその物体は何ですか?」
「え?これはスマh...ってああああああ!!!」
すっかり忘れてた!この世界にはスマホなんて電子機器無いんだった!僕のバカ!何やってんだよ!
「え、えっと!これは、目に見えているものを保存できる特殊な道具でして。ここに書いてあることを1度に覚えられないからこれで保存しようと。」
そう言って僕は撮った写真を見せる。受付係さんはスマホを手に取り物珍しそうに写真を見る。ていうか、さっきから「ほえぇ~~~」しか言っていないんだが。
「あ、あの。」
「はっ!す、すみません!お返しいたします!」
ようやくスマホを返してもらう。やっぱ落ち着くな。
「では、オーカ様、シャル様。お気をつけて。回復薬は忘れずに装備しといてくださいね!」
あの後、生息地域や弱点などを聞いて、見送りをしてくれた。なんでもサンダーバードはディスタント・サンダーの丘に生息しているらしい。
確か、ディスタントサンダーって元居た世界では遠雷って意味だったっけ。分かりやすいな。
「オーカ様、回復薬などはどうされます?」
「う~ん。お金も出来るだけ使いたくないしな。あ、僕の回復魔法で何とかなるんじゃないかな?」
「それは...。まぁ、オーカ様なら私の事を見殺しなんかにしないでしょうし、心配はないんですけどね。何事も命には代えられませんから。気を付けてください。」
「うん、ありがとう。」
服装もお互い動きやすい格好だし準備は特にないだろう。
「よし、行こうか!」
「はい!」
僕たちはディスタント・サンダーの丘を目指し、足を進めるのであった。
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「って、とおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!」
ほんとに遠かった!走ったら余裕だと思ってたけどよく考えたらシャルも一緒じゃないか!シャルを放っていって走るわけにもいかないし、かと言ってさすがにおぶって走るわけにもいかないし...。......正直、舐めてましたディスタント・サンダーの丘。
「当り前です、オーカ様!徒歩で大丈夫でしょっ!なんかキメ顔で言うもんですからシャルはオーカ様を信じちゃったではありませんか!!」
本当にシャルには酷いことをしてしまった。肩が外れるほどに項垂れている僕にシャルは、
「てっきり飛行魔法でもあるのかと思っていたのに!」
――――うん?
ヒコーマホー?......ああああああああああああああああああああああ
あ!!!!
「その手があったのかぁぁぁ!!!」
僕は自分の唐変木さを呪った。異世界に来たばっかりで色々な事があったため忘れていたが僕には魔力があるんだった。こんな簡単なことすぐに気付いていたらシャルを疲れさせないで済んだのに!
「なんか、もう...ごめんね...。」
今にでも自責の念で死んでしまいそうな僕に慌てて、
「いい、いえ!?ももも、元はと言えば私の根性なしが悪いんですし!?それに言いだした私が悪いんですし!?と、とにかくオーカ様は何も悪くありません!!」
「...ごめん。」
道脇の切り株に腰を落とし僕は灰色に燃え尽きる。
「燃えたよ....。まっ白に....。」
もはや立ち直れない僕。
「で、では、どうしたらお元気を取り戻されるのでしょう!?私にできることがあれば何でも!!」
小さい鼻の穴をめいいっぱい膨らませてなお可愛らしい、そんな真剣な顔で僕に問う。放心状態だった僕は特に考えず、思ったことをそのまま口にしてしまった。
「とびきり可愛い声で〝頑張って、お兄ちゃん!〟って言ってくれたらなぁ。」
「ふぇぇ!? ううぅ~。わ、分かりました!このシャルロット!精一杯、応援させていただきます!」
そう言ってシャルはとびきり可愛い仕草でいつもの何倍も可愛い声で、
「頑張ってねぇ?、おにぃちゃん!」
少し上ずった妹声で耳元に囁いてくれた。
―――プツッ―――
「...う...うおお...。...うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
僕の中で何かが切れる音がした。周りに突風が吹き荒れる。どうやら僕の雄叫びに空気が、地面が呼応しているようだ。
「は、恥ずかしかったけど、頑張って言って良かったです!」
だが、シャルがそう思ったのも矢先。
「うおおおおおおおおお...って、あ、ああああああああああああああああ!!!」
今度は一転、膝を崩し悶絶している。過去これほどまでに人の感情が動いた事は数えるほどもないだろう。それほどまでに激しい感情の変化だった。
――――言うなれば熱に覆われた火山から凍てつく氷山の様に。
――――言うなれば自然の宝庫である原始林から死の地である砂漠のように。
一瞬で環境が真逆になる光景を一度でも目にしたことはあるだろうか。
その奇跡の出来事が今、人の顔で起こったのだ。
「同い年の人にお兄ちゃんって呼ばせてしまった...。これは...黒歴史だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
自分の性癖もとい言わば言葉の暴力を呼ばせてしまった、という理由で。
そんな理由で今、ビックバン以来の天文学的出来事が起こったのであった。
「そんな理由とはどういう意味だ!!!」
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「もう少しで開けたところに出ますよ、オーカ様。」
「う、うん。...わかった。」
――――今、僕は生まれて初めての危機に直面している。先刻、目の前の少女にあろうことか〝お兄ちゃん〟と呼ばせてしまったのである。で、でも見たところシャルは普通だし、僕の気にしすぎなのかな?
「あ、あのシャル。さっきのことは―――」
「ひゃ、ひゃい!ききき、気にしてませんので!!」
めっさ気にしとるやん。
「あ、あの――」
「も、もちろんオーカ様の、その...ご趣味は誰にも言いませんので!」
...。ものすごく勘違いしてる!!そして気まずい!!!ものすごく気まずい!!!!
「そ、そろそろ平野に出ますよ!」
半ば無理やり平野に押し出された僕は目の前に広がる景色に絶句する。
目の前には雄大な命の数々と――目と鼻の先にいる標的、サンダーバード。
「も、もう...やだこのいせか――」
白目を剥きながら僕は卒倒した。
私情で更新を遅らせてしまい本当に申し訳ございません。