9話 気絶してたけどね。
「はぁ、はぁ、や、やった!」
勝利の雄たけびをしてからはや二十分。なんとか部位の剥ぎ取りにも成功し、僕が作った洞穴。すなわちシャルのいる場所へと向かった。
「シャル、僕のこと褒めてくれるかな~。」
最初は二人で倒せれるのか不安だったけど、案外簡単だったな。見極めればいいだけだし、これなら当分使うか迷っていたあれも使わなくて平気そうだな。
「ふん、ふん、ふんふ~ん。」
鼻歌交じりに洞穴に戻ってきた。だが変だ。閉じたはずの穴が開いている。というより、こじ開けられている...!?
「シャル...!!」
僕はとてつもなく不安を抱え中を除く。そこには――
「っ......!!!」
――血の海が広がっていた。
瞬間、自分の中で何かがおかしくなった。今まで体の中で平静を保ってきたものが突然暴れだした。
「僕の、僕の知識の無さが...!!」
怒りに震えすぐさまシャルをこうした魔物を探しに行こうと思ったとき、
「ふぇぇ。なんてお怖いお顔をしているんですか、オーカ様ぁ。」
その聞きなれた安心する声の方向を振り向くと、そこにはちゃんとシャルがいた。
「え...?なんで?じゃ、じゃあこの血は...?」
「ああ、これは私を襲ってきたウォードッグを屠ったときの奴らの血ですよ!わ、私の血なわけないじゃないですか!」
信用してくれてなかったんですね!と言わんばかりに頬を膨らませそっぽを向いているシャルの姿に僕はようやく安堵した。
「ごめん、ごめん。僕も自分で訳が分からなくなっちゃってて。そうだよね、シャルがこんなのになるなんて...絶対にないよね。」
「そうです!だから安心してこのシャルにオーカ様のお背中をお預けください!」
「気絶してたけどね。」
「う、うぅ。それを言われるとすこし痛いですぅ。」
痛い所を突かれシャルはがっくりと項垂れる。
「でも、本当に...生きててくれてありがとう。」
この気持ちをを噛みしめながら伝えると、シャルは――
「はい!オーカ様!」
満面の笑みで返してくれた。この時、僕は気付いてしまった。二つの事に。
一つ―――あぁ、シャルは僕にとってもうこんなにも大きい存在になってしまっているんだ、と。
二つ―――あぁ、やっぱり戻ってるな、と。
「ねぇ、シャルやっぱり僕の呼び方、様付けになっちゃってるよ。」
「ふぇ!?ほんとですか!?はうぅぅぅ...。」
だってそっちの方がいいやすいんだもん~。と独り言を言っている。かわいい。
「まぁ、シャルが呼びやすい方がいいよ。」
苦笑交じりにそう伝えると、
「はい、鷹翔さま。」
今度は少しうつむきながら頬を紅に染めてそう言ってくれた。
――うん?――
「今、僕のこと、なんて...?」
「鷹翔さま、と...あっ!」
シャルは満面に喜色を湛え、
「シャルは、シャルは、ようやく鷹翔さまのことをちゃんと発音できるようになりました!」
「しゃ、シャル。ずっとオーカ、オーカって言ってたのに。僕の名前が言えるようになったんだね!」
「むぅ、そんなにバカにしないでくださいよ~。ですが、これでようやく鷹翔さまのペットの資格を手に入れました!」
「僕の名前言えたらペットなの!?」
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「えぇぇ!?も、もう帰ってきたんですか!?本当に討伐してきたんですか!?」
「は、はい!本当はもうちょっと早く帰れるはずだったんですけど、行きしなからちょっと色々あって...。」
横にいるその色々の原因であるシャルは自分が今回言った事を思い出して赤面している。お互いに性癖(なのか?)を暴露してしまって...。僕もおんなじ気もちだから。ここは平常心保って!
「えっと、この部位って換金できるんですよね?」
「え、ええ。確かにでき――って、えええええええええええええええ!!!!!!」
「うわぁ!!も、もう!ビックリさせないで下さいよ!!」
一体、受受さんは何を驚いているんだ?
「だだだだって!こ、こんなに劣化の進んでいないサンダーバードの角や爪、羽毛なんて初めて見たものだから...!!」
「それって、そんなに凄い事なんですか?」
「凄いも何も!いいですか?今回オーカ様が討伐なされたサンダーバードとは、その特徴である雷という意味のサンダーと、その部位の劣化が雷のような速さという意味のサンダー、その二重の意味を持つ、デュアル・サンダーの二つ名まであるくらい新鮮な部位を持ち帰るのが難しいものなんですよ!?加工しないと劣化が進行し続けるため、こんな鮮度の良い上質な素材は見たことがありません!!」
「試しに爪を一本剥ぎ取ったときにあまりにも早い劣化速度なのが分かったので、ここまで部位の周りの空気を薄い膜のように真空状態にしたんですけども。」
「し、んくう?何ですか?それ。」
そっか!この世界の人たちは真空自体を知らないのか。
「えっと、簡単に言えばその場から空気を逃がすっていうか。」
「逃がす?」
「劣化っていうのは空気に触れたときに空気中の酸素、っていうものに触れて劣化が始まるんです。だからその空気自体を逃がせば劣化する心配もないというわけです。」
「そんなことが、可能なんですか?」
物凄く驚いているが実はそんなに難しくないのだ。
「確か無属性の魔法って人間は誰にでも扱える魔法ですよね?」
「え、ええ。そうですが。」
「その中にソニックブームって魔法ありますよね。」
「ええ。初心者でも扱える中で魔物にも対応できる魔法のため広く愛用されていますが。それが何か関係あるのですか?」
「ええ。ソニックブームを使うとき、空気の刃を創ろうとイメージをしませんか?」
「ええ、そうしないと不完全な魔法となってしまうので。」
「その時、無意識に周りの空気を集めて刃を創っているんです。つまり、周りの空気を真空にして刃を創る、という行為を無意識にとっているんですよ。」
「つまり、ある程度イメージを固めれば誰にでもこの技術は扱えると?」
「ええ、この保存魔法はそういう魔物に対して、役に立つと思いますよ?」
「す、すごい...!!よくそんな事を思いつきましたね...!!」
「いや、僕は偶然思いついただけで。」
「それでもこの技術は称賛されるべきです!この世界の魔法史に革命をもたらす技術ですよ!」
興奮した顔でそう熱く語る受付係さん。喜んでくれてるのは分かるけど正直早く換金を済ませて帰りたいな。
「あの、それはそうと...換金の方を?」
「あ、ししし失礼いたしました!換金ですね!しばらく隣のソファにでもかけてお待ちください!」
慌てて鑑定、換金作業に入る受付係さん。でも一旦仕事モードに入ったらこういう仕事は早いんだよな。やっぱり出来る女ってかっこいいな。
「ねぇシャル、普通のサンダーバードの部位とかっていくらくらいするの?」
「う~ん。まぁ劣化の進行度合いにもよりますが大体十ゴールドくらいじゃないですかねぇ?」
「...それって全部で?」
「いえ、爪一本で。」
「うっそ!!じゃあ僕たちいくらくらい貰えるの!?」
「オーカさまの魔法のおかげでほぼ劣化は進んでいませんので...最低でも八百ゴールドチップにはなるかと。」
「うそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「オーカ様、鑑定結果が出ましたよ!」
「ええええええええ!?あ、あの!いくらですか!?」
「千二百ゴールドチップです。」
「えええええええええええええええええええええええええええ!?」
僕たちは一回のクエストで報酬である五ゴールドチップと換金した部位のお金である千二百ゴールドチップ、計千二百五ゴールドチップを貰い家路へとついたのだった。
「うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」