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未来のアシモト

作者: 蟹場理澄

 平凡なアパート、四畳半台所・押入れ付。そんな部屋の真ん中で布団もひかずグースカ幸せそうに寝てる金髪ロリ系の愛すべき後輩(青ジャージ上下装備)の腹に私は蹴りを入れた。

「ぐぇぶ!? おふ、ごふ!な、何ですか宇宙人襲来ですか!? やるならこの舵月左右(カジツキ・サユウ)が相手になりますよコンチクショー!」

 さっと立ち上がったかと思うとスペシウム光線のポーズをとり周囲を見渡す左右(真剣)。目の前に立っている私を見あげ――――私は180代と女にしてはかなり背が高いので150代の左右はほぼ真上を見るような形になる――――、元々大きいどんぐり眼をさらに見開き、ペタンとその場に座り込む。そのままポツリと一言。

「う、宇宙人がセンパイに化けてる……? いや、取り憑いてるのですか……? こうなったら鬼に金棒泣きっ面に蜂豚に真珠なのですよ……」

 誤解をといてついでに豚に真珠は意味が違うと教えてやろうかと思ったが、私が口を開くよりはやく目の前の全自動早とちりマシーンは、

「し、しかし! 確かに宇宙人×センパイは障子にメアリーな強力タッグですがしかし! 宇宙人さん、この左右ちゃんをお忘れでは? その個体、飛橋拳華(トビバシ・ケンカ)は確かに強力ですが左右ちゃんの前では無力! 嘘だと思うならかかってらっしゃい!」

 シャドーボクシングをしてから打倒エイドリアーン! とか叫んで突進してくる左右。そろそろめんどくさくなったのでもう一度蹴飛ばして目をさまさせる。

「目は覚めた? 任務がきたわ。車で直行するからすぐに支度しなさい。あとエイドリアンはエイリアンの親戚じゃないわよ」

「ぶふっ!? うむ、その冷静な突っ込み、センパイと認めるに値します! 少々お待ちを、すぐに着替えますので」

 今までの行動が嘘だったかのようにてきぱき動き、服を脱ぎ始める左右。仕事服と化しているゴスロリを着るロリ系を眺めつつ、ふと気になったことを口にする。

「あんた、そんなんで動きにくくないわけ?」

「見た目より軽いうえに長めのスカートが袴みたいな役割をはたすので、慣れればそれなりに。胸に余計な脂肪がたーっぷりついているセンパイのほうが動きにくいと思いますよ!?」

着替えを終えて殺意に満ちた目で私(の胸)を見上げる左右。面倒なのでそのまま脇に抱え、下に停めた車の助手席に放り込み、私も乗り込む。



「……で、今日はいったいどんな任務なのです?」

 ブスッとした顔で窓の外を見ながら聞いてくる。どうやらきれいな朝焼けを見て感動するような精神をもってないらしい。

「どうやら田舎にサイケデリックな柄のサイボーグ巨大猿がいて、農産物食べて超迷惑、助けて害獣駆除ぶたーい! てことらしいわ」

 書類を片手でめくりつつ答える。それを聞いて左右は苦い顔。

「まーたそんなワクワクしない任務ですか……。畜生、太刀でモンスターハント! みたいなのを求めて就職したのに」

 公務員だから給料安いし、とぼやいている。書類を後部座席に放り投げ、コンビニで買った栄養ドリンクを飲みつつ応じる。

 「現実なんてそんなものよ。私だってハンマーで頭集中攻撃角破壊とか思ってたけど、」

 いったん切り、自分のパンツスーツの腰にぶら下がる拳銃と、後部座席の大量の火器類を見やる。

「あったのはヘビーボウガンも真っ青の重火器達と血の匂いよ」

 ため息をつく。隣に座る後輩は「ふーん、センパイはハンマー使いですか……」とか言っていた。

そうこうしているうちに目的の山が見えてきた。

「着くわよ、準備して」

そう言って私も手順の確認をする。



 ……で、三十分後、私達はサイケデリックな猿の自体の前で息を整えていた。

「ふう……。こんなに激しい戦いになるとは思ってなかったわ」

 そうは言っても命の危険からはほど遠く、体力を消耗しただけだったのだが。ティッシュをとりだし、返り血をふいて行く。手、顔から接近戦にそなえて着ておいたバトルスーツ(体全体のマリンスーツタイプ。黒を基調に回路状の白線がはられたお気に入り)。そして、金属バット。

 泥で汚れたゴスロリを着て、まだゼーハーゼーハー言ってる左右がこっちを向き、睨んでくる。

「重火器なんたらとか言いながら結局とどめ金属バットで撲殺じゃないですか!」

「ずいぶん息があがってるわね。でも、実際の決定打は左右が猿の口に手榴弾ぶちこんだことでもあるんじゃない? あれの直後に金属バットで殴って破裂したんだから。……それにしても虫も殺さないような顔したパツキンロリっ娘がそんな野蛮な行動って、どうなのかしらね?」

「センパイが囮にしたせいで追いかけ回されたからですよ! ていうか『いかにもクールビューティー』って顔してながら微笑みつつ金属バットをふりかぶる方が絶対トラウマになります」

「まあ、それは置いといて」

「置いとかないでください!」

「この猿を調べなきゃ」

 さすがに騒いでいた左右も口を閉じて、明らかに人工物な猿をじっくり観察する。

「……いや『騒いでいた』って、元凶センパイでしょ?」

「人の思考を読まないでほしいわ」

巨大猿に近づき、検分する。私の考えがあっていればきっと……あった。

 右半身が機械の猿。体を両断する機械と肉体の境目の首の辺りに、それはあった。左右が肩越しにふわっとしたショートボブを揺らしながら覗いてくる。

「habugoedaigakukouka&geijyutuka&jyuuika25……?」

「羽生越大学ってのが近くにあったはずよ。きっとそこの極秘の卒業製作かなにかでしょうね。芸術科と工科と獣医科の共同製作で、25を25期生だとすると卒業は一年前。おおかた、作ってから置き場に困りそっと放したのが食物がなく狂暴化した……ってところかしら」

「センパイ、やけに詳しいですね」

「事前に調べたからね」

 このくらいはこの後輩もして欲しいものだ。

「しっかしすごい話ですね。謎の怪物が大学の卒業製作でしたーなんて百年前じゃ想像もつきませんよ」

 それはそうだろう。完成間近と言われてるタイムマシンに乗って百年前に行き、「未来じゃ小学生の自由研究の内容があなた方の高校レベルです」と言ったところで、誰が信じるものか。

「けっきょく、科学は人類を幸せにしたのかしら……」

「少なくとも、私はまあまあ幸せですよ」

 立ち上がり、などと呟いたら、下から返事がきた。無論愛すべき後輩だ。左右は、イタズラっぽく笑いながらコンビニで買ってきたらしい缶ビールを手渡してくる。

「科学力の向上で私達は仕事ができ、自分の身も守れます」

「……違いないわね」

 暴力的だとか科学の幸福論とか考えるのはやめにして。

 缶ビールを受けとることにした。


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