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魔王城 会議録 ~勇者が来ないので会議を始めます~  作者: 叶詩


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1/8

魔王が負けたので会議を始めます

これは、魔王城で起きなかった出来事の記録である。


正確に言えば、

「起きなかったはずの事件について、なぜか延々と話し合われ続けている」

その経過をまとめた文書である。


これは、魔王が敗北した後の話だ。


世界はすでに救われ、

勇者は役目を終え、

魔王城には平和と沈黙と、なぜか会議だけが残った。


戦いは終わった。

だが会議は終わらなかった。


理由は、今も誰にもよく分かっていない。

魔王城では今日も、特別な結論は出ていない。


それは予測であり、同時に実績でもあった。


「では、会議を始める」


魔王が淡々とそう告げた瞬間、

会議室は、音が消えたかのように静まり返った。


誰も反対しなかった。

そもそも、反対という概念を出す理由が、もう存在しなかった。


世界は救われている。

勇者も来ない。

魔王城に脅威はない。


それでも、なぜか会議だけは定期開催されていた。


「……議題は?」


恐る恐る尋ねた側近の声は、

必要以上に慎重で、必要以上に小さかった。


魔王は即答しなかった。

一拍だけ置き、あくまで冷静に答える。


「それを決めるための会議だ」


会議室に、理解不能な空気が流れた。


誰かが口を開きかけ、

「あ、これは深掘りすると危険なやつだ」と悟ったのか、

そのまま何も言わずに閉じた。


記録係は無言でペンを構える。

理解できないから書かない、という選択肢は、この城にはなかった。


「まず現状確認をしよう」


魔王の声は落ち着いている。

無駄がなく、感情もない。

まるで、現状に特に問題がないことを、最初から分かっているようだった。


「勇者は?」


「来ていません」


「前回は?」


「来ていません」


「前々回は?」


「……来ていません」


確認は一瞬で終わった。

むしろ、この確認を三回も行ったこと自体が、すでに無駄だった。


「つまり」


魔王は咳払いを一つして続ける。


「我々は現在、非常に平和だということだな」


誰も否定できなかった。

否定材料が、文字通り一つもなかった。


「平和すぎて、やることがないというのも問題だと思うのだが」


「会議をしている時点で、すでにやることはありますが」


「会議をする理由を決める会議だからな」


魔王は冷静だった。

冷静すぎて、家臣たちはどこでツッコめばいいのか分からなかった。


側近は最終的に、黙るという判断を下した。

この城では、それが一番安全な選択肢だった。


「では次に、魔王城の脅威レベルを確認しよう」


「ゼロです」


「維持費は?」


「赤字です」


「なるほど」


なるほど、と言ったのは魔王だけだった。

他の者は誰一人、なるほどと思っていなかった。


「勇者が来ない原因は?」


「想定より勇者のレベルが二十も高く、こちらに来る必要がなくなった可能性があります」


「強すぎるのも困りものだな……」


魔王は真剣に頷いた。

家臣たちは、「魔王が困る理由ってそこなのか」と思ったが、口には出さなかった。


記録係のペンが、淡々と紙を埋めていく。

この城では、理解できない会話ほど、正確に記録される。


「結論としては」


魔王は腕を組み、しばらく考え込んだ後に言った。


「特に対策は必要ない、ということか?」


全員が、ゆっくりとうなずいた。

考え抜いた結果というより、考える余地がなかった。


「では、本日の会議はここまでだ」


魔王がそう言うと、

誰も異論を唱えなかった。


結局、この日も何一つ決まらなかった。

だが、それについて問題視する者もいなかった。


記録係が、静かに最後の一文を書き加える。


――本日の会議、特記事項なし。


その一文をもって、

魔王城ではまた一つ、

何も決めない一日が、正式に記録された。

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