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魔王が“悪役令嬢婚約破棄”に異様な熱を見せてきた件

魔王城・玉座の間


「――ナロー。お前の新作、『悪役令嬢と聖女のすれ違いロマンス』というやつ、読ませてもらった」


低く重々しい声が、玉座から響く。


(うぅっ……怒ってるのか、魔王ルリス!? 今回は“婚約破棄”がテーマだったけど、あれ……地雷だった!?)


背筋が凍る。俺、異世界転移してから“魔王様に小説読んでもらう係”みたいになってるけど、よく考えたらこれ、詰みじゃない??


編集精霊エディナが隣でぼそり。


「震えてますね、ナローさん。たしかに今回のラストは……やや“ざまぁ成分”が薄かった」


(やっぱダメだったかあああああ!!)


だが次の瞬間。


「――だが、あれは至高だった」


「へっ?」


「主人公の悪役令嬢が、婚約破棄されたあと“恋など必要ない”と断言しながらも、ふと落ちた紅茶の音に胸を震わせるシーン――あれだ。あの一文に、私は……」


ルリスは視線を逸らし、重々しく、だが確実に、告白するように呟いた。


「泣いた」


「えええええええええええええええええええ!?!?また!?」



魔王は饒舌に語る。


「“婚約破棄”は、形式ではない。心を切り裂く儀式だ。王国でも魔界でも、それは同じ。あの痛みが、あの選択が、物語を強くする」


(え……なにこの魔王、めっちゃ文学的……!)


「貴様は、真にわかっている。失恋の、渇きと哀しみを。ゆえに問う、ナロー」


(やばい、目がガチだ……!)


「次回作は――『ざまぁ系』だな?」


「やっぱそっちぃいいいいいい!!!!!」



魔王から意味不明なお褒め言葉を授かったあと、編集精霊から今後の冷静な提案が入る。


「では、ナローさん。“魔王推薦枠”ということで、新作は『断罪イベントから始まる、令嬢の夜会復讐録』あたりでいきましょうか」


「エディナ! 君までノッてるの!?」


「プロットはもうあります。ルリス様の嗜好をベースに、“読者人気の高いパターン”で行きましょう」


開幕から断罪パーティ

主人公は実は婚約破棄されて正体を隠した元公爵令嬢

敵は腹黒王子と聖女(仮)


「ラノベの闇鍋みたいな展開じゃねえかあああ!!」



それを聞いていた魔王が話に割って入る。


「安心しろ。私が出資する」


「いや企画じゃなくて!? 割と本気じゃないですか!?!」


「タイトル案もある。“悪役令嬢ですが魔王に恋されました〜断罪されたので魔界に行ったら溺愛されました〜”」


「読者層がピンポイントすぎるぅぅぅぅぅ!!!!!」


「……何か問題でも?」


低く、魔王らしい威圧感。


(あ、これ以上逆らうと次作が“処刑台スタート”になるやつだ)



そして俺はまた魔王向けの小説を書くことに……


「ナロー。次の納期は3日後。わかったな?」


「わかりましたァ!!!」


俺の異世界作家ライフは、今日も魔王の愛読リストのために回り続ける。


がんばれ、俺。

この作品が魔界で映像化される未来を、信じて――。

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