やめてくれ! それは投稿三分で消したやつだ!
「ナローさま! 我らはずっとお待ちしておりました……!」
ナローは見知らぬ田舎の村で、膝をつく100人近い村人に囲まれていた。
「え、ちょ、なにこの宗教儀式的なノリ!?
俺、今日ちょっと温泉寄って帰る予定だったんだけど!?」
その横で、いつものようにエディナが小声で呟く。
「どうやら“神の書”が村に流通してまして……」
「神の書って何だよ!? 俺そんなハイファンタジーなもん書いてないぞ!?」
「いえ、“異世界でスライムを肥やしに農業する”という作品名です」
ナロー、石化。
「それは……っ!!」
投稿して3分で自分の中でボツにした、誰にも見せてないはずの、
異世界農業スローライフ(失敗版)だった。
◆◆
「この方こそ、かの伝説の農神“ナロー=スライムロー”様だッ!!」
村長が謎のテンションで叫ぶ。
「我らは日々、スライムに畑を耕させ、
肥料にし、煮込んで、食べ、そして祀っておりますぞ!」
「読解力ェ!! ぜんぶ間違ってるから!!
スライムは畑の横にいただけで、祀ってねえから」
◆◆◆
さらに村の奥。
村人たちがナローの“黒歴史小説”をまとめた石碑を見せてきた。
「ここに……ナロー=スライムロー様の『語録』を刻んでおります」
そこには見覚えしかない恥ずかしい文章が――
『肥やしは心。スライムは愛。収穫は勇気。』
「ぎゃああああああああああああああああああ!!」
地面を転がるナロー。
「よりによってクサいポエムのとこ抜き出すなァァァァ!!」
エディナはどこか遠い目で呟く。
「これはこれでバズりますね……“農業×神格化”……読者層が分厚いです」
「やめろ!? バズらせるな!? 絶対にバズらせるな!?」
◆◆◆◆
「さぁ神よ! 明日からの畑もスライムに任せますゆえ!」
「信仰深いのはわかったから普通に鍬を持てェ!!」
そして――
【新作ブクマ数:+920】
【“スライム農神ナロー信仰”が一部エリアで流行中】
【スライムの価格、10倍に高騰】
ナローは静かに、自分の“黒歴史”を焚き火にくべる準備をした――