編集精霊と森でスランプ会議
朝。
ナローは机に突っ伏し、頬に原稿用紙の跡をつけながら呻いていた。
「くそ……ネタが出ねぇ……これはいよいよ、“スランプ”ってやつか……」
机の端には前回エディナから押し付けられた“気合いの万年筆(魔力式)”。
まるでナローの怠惰を嘲笑うように、カツカツと机に揺れていた。
そのとき――
「さ、スランプの気配を察知してまいりましたよ〜」
「来たな編集精霊!」
ナローが椅子ごと振り返ると、そこには空中をふよふよ漂う、
銀髪で浮遊してる少女――編集精霊エディナ。
ふわりとした雰囲気、飄々とした口ぶり、でも言うことはガンガン刺さるタイプ。
「また来やがったなこの天使面の圧力機関……」
「人聞きが悪いですね、私はただ、あなたの『文筆の死臭』を感じてやって来ただけですよ」
「言い方ァ!!」
エディナは空中でくるりと回転しながら、さらっと言う。
「というわけで、ネタ出しのために森に行きましょう」
「唐突すぎるだろ!? 普通“コーヒーでも飲んで落ち着きましょう”くらいの助走挟まない!?」
──そして、何の同意もないまま、ナローは森に連れてこられた。
「うわ、森って意外と湿気すご……てか、ここって安全なの?」
「大丈夫です。“比較的マイルドな魔物しか出ない森”ですから」
「比較的って何だよ!!! “比較的生きて帰れる死地”と同じ文法じゃねぇか!」
ナローが騒いでいると、エディナはふと立ち止まり、
地面に落ちていた謎の葉っぱを拾い上げた。
「これは……創作草ですね」
「お前、草にもジャンルあんの?」
「はい、文脈を整える香りがします。嗅ぎます?」
「うん、たぶん俺、今もうだいぶ整ってるからいいわ」
ふわふわと話しながら森を歩いていると、
ポツンと立つ小さな祠を見つけた。
エディナがポンと指差す。
「ここです。“ネタの泉”」
「また便利なネーミングの場所だな!」
祠の中には、なぜかやたら高そうな机と椅子。
そして、ぴかぴかの原稿用紙が一枚だけ置かれていた。
「おぉ……! これはもしや、“書きたくなる魔法”とか?」
「違います。書かないと“編集者に追われる幻覚”が出る呪いの紙です」
「何でそんなピンポイントな仕様なんだよ!!?」
ナローは、震える手でペンを持つ。
その横で、エディナが涼しい顔で言う。
「さ、ナローさん。“今日のあなた”が何を書くのか、編集として見守りますね」
「急にいいこと言うんじゃないよバカヤロウ!! プレッシャー倍だよ!!!」
そして、ナローは書き始めた。
その手が、すこしだけ迷いなく動いていたのは――
たぶん、となりで飄々としてる編集精霊がいたからかもしれない。