勇者セリオン、小説家ぁデビューして全力でスベる
「聞いたぞ、小説家ぁ……貴様、魔王を泣かせたらしいな」
目覚めるなり、異常にキメ顔の勇者セリオンがベッドの横にいた。
「なんで寝起きに顔面アップで来るの!?勇者って暇なの!? というか“魔王を泣かせた”って、もっと他の言い方ないの!? 小説の感想で泣いただけだよ!!」
「ふはは、見たぞ、貴様の原稿……!
“村人Aだった俺が村の経済を回していた件”……
地味すぎて逆に読めた。泣けた。ツボにきた」
「(お前も泣くんだ……)ありがとう。でも顔が近いから3歩下がって」
「決めたぞ……俺もなる、小説家ぁに!!」
「やめとけ勇者!! 他にやる事あるだろお前にはぁ!」
──だが彼の決意は固かった。
「俺も書く! 人の心を! 震わせる小説を!!」
「心配なのはお前の知能指数なんだけどな!?!?」
「小説家ぁ、筆を貸せ! 俺の運命、今ここに記す!!」
「やめろ! インク使いすぎ! ペンの先からブシャアしてるよ!!」
──そして数時間後。
勇者セリオンは、何かを仕上げた。
「小説家ぁ……見よ。我が魂の結晶をッ!!」
どや顔で渡された羊皮紙には、こう書かれていた。
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タイトル:
『最強の俺が最強だから世界が最強になった話(最強)』
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本文(全文):
俺は最強だった。
昨日も最強。今日も最強。
明日もたぶん最強。
なんかもう最強すぎて困る。
世界が震えた。
以上。
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「薄い!!!! 内容が豆腐の気配レベルで薄い!!」
「なにを言う、小説家ぁ! これぞ“最強の美学”だ!」
「違う! それは“中身がないってバレない文体”だよ!!」
その夜、魔王ルリスがその原稿を読んでいた。
「……ふむ。勇者セリオンの新作か」
「魔王様、怖いもの見たさは命を縮めますよ!? 読まないほうが──」
側近のガーゴイルが心配そうに呟く。
「……ククッ」
「え、笑って──?」
「このセンス……バカだ。だが、それが良い!」
そして翌朝。
街の掲示板に貼られた新作紹介ポスター。
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新星作家セリオンの爆誕!
『最強の俺が最強だから世界が最強になった話(最強)』
──日間7位、ジャンル1位(謎)──
読者の声:
•「文章の無駄が一切ない。なさすぎて怖い」
•「最強って何回言ったか数えたくなる」
•「最強なのに読後感はなぜか空腹」
「小説家ぁあああ! 我は人気作家となったぞ!!!」
「やめてお願い!!! “小説家ぁ”って連呼するのやめて!!! 語尾じゃないのよそれ!!!」
「小説家ぁ、小説家ぁ、小説家ぁ〜〜!!!」
「やめえぇぇ! 怖いって、この勇者頭おかしいってえええええ!」