魔王ルリス、感動のレビューを書く
「貴様の小説……泣いたぞ……!」
朝、拠点となった謎の図書館で目覚めた俺の前に、魔王ルリスが仁王立ちしていた。
「お、おはようございます。ていうか昨日も来てましたよね?」
「黙れ。貴様の『勇者を支えていたモブ商人が実は大英雄だった話』……あれは反則だ。あまりの伏線回収に震えたわ」
「え、そっち!? 伏線の話で泣いたの!?」
ルリスの目は真剣そのもの。
いや、マジで泣いてた。感動して鼻水垂らしてた。魔王の威厳どこ行った。
「ところで、続きを早く書け」
「ええ〜!? さすがに無茶ぶりじゃないですか!? 今、原稿用紙4枚目で──」
「では……この者を人質に取る!」
「ヒィィィィ!?」
隣で寝ていた編集精霊エディナが、羽根をバタバタさせながら抱き上げられる。
「助けて! ナロー先生、魔王って言ってたけど、本当に魔王だったー!!」
「え、逆に疑ってたの!? 見た目100%魔王だったよね!?」
「続きを書かぬと、貴様の担当を締切の刑に処すぞ」
「それもう死ぬより地獄だからやめてぇええええ!!」
仕方なく俺は、テーブルに原稿を広げ、マジで命をかけて執筆を始めた。
そして、1時間後──
「できた……ッ! タイトルは……『村人Aだった俺が気づいたら村の経済を回していた件』」
「地味ッ!!」
「でもルリス好みなんでしょ!? 経済モノ好きだったでしょ、魔王だけに!」
するとルリスは、ふん……と鼻を鳴らして原稿を読み始めた。
──5分後。
「……クッ、なんだこのモブ農家の台詞……」
「“俺がやらなきゃ誰が野菜を洗うってんだよッ!!”」
「……泣いた」
また泣いた。
ガチ泣きで、レビューを書き始めた。しかもレビュー用の魔法の羽ペンを持参で。
「レビュー名:涙で濡れた大地の中から
点数:★★★★★
感想:これを書いた語り部に、魔王領の栄誉ある“聖筆章”を授けたい」
「聖筆章て何!? なんで魔王が筆の称号持ってんの!?」
──その後、俺の小説は魔王領内で爆バズり。
街中の掲示板にはでっかく貼り出されたレビューと、俺の似顔絵が。しかもエディナが無駄に美化20割増しで描いていた。
「ちょっとおおお!変にイケメン風に盛るのやめてぇええ!!ガッカリされるから!実物見た時絶対ガッカリされるからぁぁぁぁ!!」
「作者補正ですっ♪」
次回!勇者セリオンが「俺も小説書けば魔王にモテるのか」と勘違いし始め、
異世界は空前の小説家バブル時代に突入!
※ただし、まともに書けるのはナローだけだった。