魔界文学大賞!?③
空は血のように赤かった。
魔界文学大賞・本選会場。
そこは文字通り「書に選ばれし者」のみが踏み入れる、異空間――“語詠の円環”。
ナローは震えていた。
いや、正確にはナローの背中で怯えている小妖精エディナが震えているのだった。
「な、ナロー……あれが今回の対戦相手……」
「……あぁ。俺の作品を“紙魚の餌にもならん”って言った男だ……!」
会場の中央に立つのは、一人の魔導士。
その名は――メフィスト=ブックワーム。
全身を本で覆い、瞳に映るのは無数の引用符。
彼はすべての文学を支配する男。過去、未来、そしてこの世界の“設定”すら改稿する男である。
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「ナロ・リズム……たしかに面白かった。が、それは“読者の温情”という名の眼鏡越しに見た幻想だ。君の文章には骨がない。甘い。綿あめのように、ただ消える」
「うっ……そこまで言う!?」
「だが私は期待している。君がこの舞台に上がってきたことを。
さぁ――**“文章バトル”**といこう」
メフィストが一冊の本を開いた瞬間、空間が揺れる。
次元が裂け、黒き文字列がうねる。
「第一章、“滅びの比喩”!」
彼の語りが始まると、空間全体が重たい抒情詩に包まれる。
語りは深く、象徴に満ち、しかし容赦のない破壊力を持っていた。
――それはまさに、文学による戦闘。
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ナローも負けてはいなかった。
「こっちだって負けられないんだ……俺には!
ここまで来るのに! セリオンとの冒険を書いて、ドラゴンに乗せて、王女を爆破して……!」
「その描写、色々問題ない!?」
ナローは叫ぶように、自らの原稿を投影した。
「タイトルは――“異世界で小説家になろうと思ったら最終的に勇者の母親になってた件”!!」
メフィスト「タイトルからおかしい!」
ナローの作品世界が展開されていく。
セリオンという少年が、ナローの描いた物語の中で旅をし、成長し、そして言葉を紡ぐ。
「……君が書いた物語が、僕を変えたんだ」
その一言が、観客たちの心を打った。
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メフィストがひとつ息を飲んだ。
「……ば、ばかな。私は……比喩の暴力、文体の斬撃で完封したはず……」
「確かにお前の文章は重厚だった。でもな……」
ナローは、自信を持って言い切る。
「俺の文章には“キャラ”がいるんだよ!」
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結果、ナローの作品は、読者投票で圧勝。
メフィストはその場に崩れ落ち、最後に一言呟く。
「……キャラ……か……くっ、そんなシンプルな……でも……
それは確かに……“物語”の核だったな……」
彼の体は本となって崩れ、風に舞って消えていった。
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勝利後、ナローはぼんやり空を見上げていた。
「……やっぱスローライフどこ行ったんだろう」
「帰ってこいスローライフ」
とエディナがしれっとツッコミを入れる。
だが、もうナローにはわかっていた。
スローライフなんて最初から無理だった。
なぜなら、彼の人生そのものが物語だったからだ。