魔界文学大賞!?②
――文学とは、魂を削る営みである。
そんなことを言っていたのは誰だったか。
たぶん、昨日のナロー自身だった気がする。
「……エディナ、なんで俺は今、炎に包まれた講評会場にいるのかな?」
「おそらくそれは“業火の会場”と呼ばれる、魔界文学界隈で最も辛辣な批評の儀式だと思う」
「やっぱり!? 講評ってもっとこう、穏やかで優しくて、
“君の作品、ここが素敵だね”って言ってくれるもんじゃないの!?」
ナローは今まさに、業火の椅子に括りつけられた状態で、
魔界の批評家たちの怒涛のレビューを浴びていた。
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「セリフの多用によるテンポ感は評価できるが、構成が甘い」
「三章でいきなり時空が歪む理由の伏線が未回収だ。読者を舐めているのか?」
「主人公が死んだと思ったら次の章で“気のせいだった”は、物語への侮辱だ!」
「全体的に百合度が足りない」
「そこ!?」
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ナローの心はボロボロだった。
かつてこれほどまでに、自分の創作が燃やされ尽くしたことがあっただろうか。
「うぅ……だって、こんな真剣に読まれると思わなかったんだもん……」
「甘えるな」
そう言って、ルリスが静かに現れた。
黒のマントを翻し、業火の講評席に立つ魔王。
すると、空気が一変する。
「我が弟子・ナローは未熟だ。だが――」
ルリスは手を振り上げると、ナローの原稿を空中に投影した。
「この第8章。ここで敵役の令嬢が“あなたが私の運命を変えたの”と呟く場面――
この描写だけで、私は50年ぶりに涙を流した」
「えっマジで!?」
会場がざわつく。
「……たしかにあの一文は……妙にグッときたな」
「うむ……敵役の掘り下げが、ただの萌えキャラを超えていた……」
一転、評価の風が吹き始める。
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その後、ナローの作品は“佳作”として一時通過する。
受賞ではないが、一次選考突破は誇れる成果だった。
会場を出たナローは、頭にタオルを乗せながら呻いた。
「……たぶん、あの講評会……俺の寿命削ってる……」
「たしかに少し髪が減ったような」
「やめてくれ!!」
だが、それでも心の中に、ほんの小さな火が残っていた。
――伝わったんだ。自分の言葉が。
どれだけバカバカしくても、変なキャラが出てきても。
自分の書いた物語が、誰かの胸に引っかかることがある。
それだけで、たぶんやる意味はあるんだ。
「次こそは……本選で勝ち上がる。今度は“エルフ農場ラブホコメ”でいく!」
「やっぱスローライフ要素ねぇじゃん!」
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その頃、別の場所。
魔界大賞に突如として現れた新勢力――魔導士団所属・メフィスト=ブックワーム。
「“ナロ・リズム”?……面白い。あの作品、やはり“写本の書”に記されたものに酷似している」
彼の背後には、古の魔書が静かに開いていた。