異世界スローライフ? こちとら現代社畜だぞ
現代日本社畜ものを書き上げたナローは、ボロボロだった。
「もう嫌だ……
働く人間なんて書きたくない……
オフグリッド……
スローライフ……」
震える指先で羽ペンを持ち、ナローは叫んだ。
「次は! オフライン! 野菜育てて! 山で動物と触れ合って!
モフモフと癒ししかない“異世界スローライフ”を書くッ!!」
「テンプレきたー!」
エディナが手を叩いた。
「わかりました、ナローさん。じゃあまずは“田舎村の空き家”からですね」
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魔王ルリスは興味深々だ。
「ふむ、つまり“働かない物語”か。ナロー、それは面白いな」
「読んだら眠くなりますよ」
「それがいいのだ」
ルリスの玉座の横には、すでに**“抱きまくら型スライム”**が用意されていた。
準備万端である。
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◆ 執筆開始:「異世界に転生したので、スローライフしようと思ったが、村が燃えてた件について」
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「転生して目を覚ますと、目の前の村が燃えていた」
「おい!!?」
「……でも僕はスローライフするって決めたんだ……」
ナローの筆が止まらない。
「“火事を横目に、とりあえず川で釣りを始めた”」
「ナローさん!なんか“スロー”の概念間違ってない!?」
「いいから続きを読んでください! スローライフってのは“心の在り方”なんです!!」
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村の再建に巻き込まれる。
襲ってくる魔物に狩りを頼まれる。
スローライフ(物理)を送りたいだけなのに、
何故か主人公は「村長代理」になっていた。
「“こうして俺は、畑の横で魔王軍の使者を迎える立場になった”」
「まって、どこがスロー!? どこがのんびり!?」
「“帰ったらモフモフと戯れる時間があれば、スローなんだよ”」
ナローの筆は止まらない。
「“一日働いて疲れて帰った家に犬がいる。
それだけで、人生はスローだろう?”」
「それもう、働いてる人の叫びじゃん……!」
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そして読後――
魔王ルリスは、なぜかキッチン用品を抱えていた。
「スローライフ。良いな。
私は今日から“魔王飯”を始めよう」
「異世界クッキング編に発展しそうな気がする!!」
エディナは原稿をパラパラめくりながらうなる。
「ナローさんの“スローライフ”って、働かされてる人の涙で炊いた白米みたいな味します……」