黄昏時のプロローグ
まったりと物語はじめてみました。
しばらくは地上の物語を書き進める予定です。
どうぞ、お付き合いください。
紺碧の湖と、どこまでも続く広い空。
地上には緑豊かな森林が広がり、人々に豊かな恵みを与えてくれる。
「ラック!そろそろ帰らないと、おじいさん心配するんじゃない?」
「もうそんな時間?たくさん採れるから、ついつい夢中になってたよ。」
顔を上げると、空の色がわずかにオレンジに変わりつつあった。
僕はマホベリーで一杯になった籠を背負いつつ、カズハの方を振り返る。
カズハの籠も今日は満杯で、いつもと違う場所へ足を延ばした甲斐があった。
「もう日が傾き始めているから、早く帰らないと。家に着くころには真っ暗よ?」
「大丈夫だよ。今日は連絡をすれば叔父さんが迎えに来てくれるから。」
そう答えつつ、カバンの中から古ぼけた機械を取り出す。
「ラックも魔法が使えればいいのにね。そうしたら、そんな機械を持ち歩かなくても、すぐに連絡できるのに。」
「仕方がないよ。できないものはできないんだもの。先生からも圧倒的に才能が無い!ってお墨付きをもらったよ。」
「魔力がなかったんでしょ?」
「そうみたいだね。生まれた時から出来ないのが当たり前だったから、あまり気にしてないけどね。」
僕は生まれつき魔法が使えない。
どうやら、普通の人には誰にでもある魔力が無いらしいのだ。
機械を操作して、叔父さんの端末を呼び出した。
「ラックか?遅かったじゃないか。そろそろ連絡が来るかと思って待っていたよ。今どこらへんだ?」
「今日は湖の北の方に来ているんだ。悪いけど、湖の北の畔まで迎えに来てくれないかな?」
「わかった。30分くらいで到着できると思うから、ちょいと待っててくれ。」
今日の風は穏やかだから、結構早く迎えに来られそうだ。
連絡を終えると端末をカバンに仕舞い、湖に向かって歩き始める。
「ラックの叔父さん、飛行船持ってていいなぁ。うちにも有ったらいいのに。」
「僕のじゃないし、叔父さんの船はオンボロだよ。車を持っているカズハの家の方が、僕はうらやましいよ。」
「でも、車じゃあ森の中には入ってこれないでしょ。」
「それはそうだけど。。。」
二人で色々と話をしている間に、湖の北側にたどり着く。
湖に着くころには辺りもだいぶ薄暗くなってきて、空にはまばらに星たちの瞬きが見え始めていた。
「おーい!ラック!カズハ!ロープを受け取ってくれー!」
頭の上から叔父さんの声が聞こえた。
上を見上げると、飛行船の窓から手を振っている叔父さんが見えた。
ロープを受け取って、手近な木に結び付けると、ゆっくりと飛行船が降りてくる。
「お待たせ!さぁ、町に帰ろう。」
僕らを乗せて、再びゆっくりと飛行船が空に浮かぶ。
高度が森の木々の高さを越えると、湖を越えた先に灯台の明かりがはっきりと見えた。
「いつも思うけど、空から見る灯台の明かりって、綺麗ね。」
「そうだろう!ラックの爺さんの爺さんの爺さんの爺さんの頃から、丁寧に手入れしてきた灯台だ!我が一族の誇りさ!」
「1200年以上前から建ってるらしいよね。」
「何年前かは俺は知らん!だが、あの灯台のおかげで、みんなが安心して船を飛ばせるのさ!」
次第に灯台のシルエットが大きくなってゆく。
藍色の空にまっすぐ伸びるそのシルエットは、飛行船の飛ぶ高さよりも更に高い。
昼間は真っ白に見える灯台も、この時間に見ると黒い影となって空に溶けていくように見える。
大昔から人々の暮らしを支えてきた灯台を横目に過ぎると、砂金をバラまいたような街の明かりが眼下に広がってゆく。
叔父さんの飛行船は、無事に町の船着き場に着陸した。
「今日は付き合ってくれてありがとうね!また明日ー!」
「カズハもありがとう。家まで気を付けて!」
「ベンとサラによろしくな!」
カズハを見送ってから、僕らは叔父さんの家に向かって歩く。
今日は叔父さんの家に泊まって、明日我が家へ帰るのだ。
おじいちゃん、マホベリー喜んでくれるかな。。。?