小休憩
ふと左前方の道路沿いに、無人のほったて小屋と、「新鮮野菜」とプリントされたのぼりを発見した。寂寥感の漂う古ぼけた小屋の前に、とうきびの皮を捨てるための青くて大きなバケツが置いてある。
採れたてを食べられるのも、せいぜいあと数日のうちかもしれないな。僕はそう考え、恐らくは今シーズン最後となる貴重な一房を堪能すべく、その直売所へ寄ってみることにしたのだった。
ボリュームツマミを絞って生の白とうきびにがっついていると、父さんから着信が。ベトベトになった両手を迷彩柄の軍パンに当てこすってから電話に出る。
気がつくと、着古したバンドティーシャツの骸骨のイラストの部分に、とうきびの汁が盛大に飛んでしまっていた。でもまあ、黒だから目立たないし、別にどうってことはない。
電話口の父さんは相変わらず元気そうだった。会話の内容は、いつもとそう変わらない。東京は北海道に比べて暑すぎる、とか、家の掃除はちゃんとしているか?とか、ブルーベリーの収穫作業は順調か?とか。
そっけない返事しかできない自分が情けないけれど、それにしても、電話で話すのはやっぱりどうも照れくさくて苦手だ。
「明後日訪問する予定の農園の方々に、くれぐれも粗相のないようにね。あんたは礼儀がなってないんだから」
そう釘を刺してくる母さんを振り切るようにして、僕は「はい、はい、了解だよ」と相槌を打ってから電話を切った。
残りのとうきびとトマトをいっぺんに平らげ、スーパーで買っておいたパサパサのおにぎりにも手をつける。ちぇっ、なんだよこれ。鮭、ケチりすぎだろ。まあいい、これで夜までなんとか持つはずだ。
本当はラーメンでも食べたいところだけど、札幌でのホテル代や食事代、それに往復のガソリン代とレンタカーの利用料金を加味すると、可能な限り支出を抑える他ない。
なおも照りつける直射日光を避けるためにサングラスをかけ、直売所を出発する。次なる目的地は洞爺湖だ。
小学生の頃、家族でキャンプをしに行って以来だから、訪れるのは十数年ぶりか。
札幌では一泊するだけで、今夜は別段用事があるわけでもないから、しばらく湖のほとりでボーッとして過ごすのも良いかもしれない。