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 間もなく窓からの光は遮られ、電車はゆっくりと札幌駅のホームへと滑り込んでいった。そこには交錯するたくさんの人生があった。


 あまねく全ての人生に創造のドラマがある。そんなことをぼんやりと考えた僕は、メモ帳に断片的なフレーズを書き込んでいった。


 数分後には電車から降りなければならないというのに、次から次へと言葉が降り落ちてくる。


 それらはどれも、ある種慈しみに似た視点を内包しているように思えた。

 

 人間嫌いをピークでこじらせていた数年前の自分からしてみれば、本当にありえないことだ。


 そしてその瞬間、僕は、いつの間にか自分自身の内面ががらりと変わっていることを自覚したのだった。


 僕自身の、持て余したエネルギーに翻弄され続けた二十代は、自意識過剰な若き日々は、世の中の全てをぶっ殺したくて仕方がなかった暗黒の青春時代は、本当の意味で終わったのだ。いつの間にか、季節が過ぎ去るように終わってしまっていたのだ。


 肩を窓際にもたれかけホームを眺めている柄ちゃんに、僕は恥ずかしくてずっと言いそびれていた言葉を、今、ようやく届けてみることにした。


「あのさ、俺、分かったんだ。多分、俺、『ありがとう』って言葉が欲しかっただけなんだと思う」


「え、なに? ありがとう? 後半がよく聞こえなかった」


 到着時刻の若干の遅延を詫びる車内アナウンスと、背後の座席で火がついたように大泣きし始めた赤ちゃんの声に、中空へと放たれた僕の言葉は、あっけなくかき消されたのだった。


「いや、なんでもない。気にしないで」

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