表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/76

再会

 車窓越しに見えるのは、不機嫌そのものの寒空と、荒れに荒れた真冬の太平洋。


 切れ味鋭い雪風が、浜辺にちらほらと佇む杉の木を、ボクシンググローブみたいな気流の塊で小突き回している。


 ガタンゴトンと小気味良い音を響かせる車内には、ヒーターの乾いた匂いが満ちていた。


 頬のてっぺんまでもが真っ赤に温まっている。僕はセーターの袖をまくると、水筒のブルーベリー葉茶をゆっくりと味わった。


 小説の推敲作業を中断し、眉間や目尻を人差し指と親指でマッサージしてから、膝上のラップトップをそっと閉じる。

 

“Hey, wazup? Long time no see.”(よう、久しぶり)


 過ぎ去っていく、代わり映えのしない、だけど微妙に異なる白の景色の連続をぼんやり眺めていると、何者かの手が僕の肩に触れた。


 向かいの席にゆっくりと腰掛けたその男の顔を見て、思わず目を見開く。


 カナダに留学していた頃、凍える夜のバスターミナルで話しかけてきた、あの白人のホームレスではないか。


 顔中を覆っていた針金みたいな茶色の髭はきれいに剃り落とされ、スラッとした肢体を小綺麗な紺のセットアップに包んでいる。


 誰も立ち入ったことのない山奥の湖を連想させる、吸い込まれそうな青い瞳。あの時となんら変わりない。


 それにしても、改めてよく見ると随分ハンサムな男だったんだな。まるでハリウッド映画に出てくる俳優みたいだ。


 酸っぱい体臭の代わりに漂ってくるのは、オーデコロンの爽やかな香り。恐らく、ホームレスという身の上ではなくなったのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ