再会
車窓越しに見えるのは、不機嫌そのものの寒空と、荒れに荒れた真冬の太平洋。
切れ味鋭い雪風が、浜辺にちらほらと佇む杉の木を、ボクシンググローブみたいな気流の塊で小突き回している。
ガタンゴトンと小気味良い音を響かせる車内には、ヒーターの乾いた匂いが満ちていた。
頬のてっぺんまでもが真っ赤に温まっている。僕はセーターの袖をまくると、水筒のブルーベリー葉茶をゆっくりと味わった。
小説の推敲作業を中断し、眉間や目尻を人差し指と親指でマッサージしてから、膝上のラップトップをそっと閉じる。
“Hey, wazup? Long time no see.”(よう、久しぶり)
過ぎ去っていく、代わり映えのしない、だけど微妙に異なる白の景色の連続をぼんやり眺めていると、何者かの手が僕の肩に触れた。
向かいの席にゆっくりと腰掛けたその男の顔を見て、思わず目を見開く。
カナダに留学していた頃、凍える夜のバスターミナルで話しかけてきた、あの白人のホームレスではないか。
顔中を覆っていた針金みたいな茶色の髭はきれいに剃り落とされ、スラッとした肢体を小綺麗な紺のセットアップに包んでいる。
誰も立ち入ったことのない山奥の湖を連想させる、吸い込まれそうな青い瞳。あの時となんら変わりない。
それにしても、改めてよく見ると随分ハンサムな男だったんだな。まるでハリウッド映画に出てくる俳優みたいだ。
酸っぱい体臭の代わりに漂ってくるのは、オーデコロンの爽やかな香り。恐らく、ホームレスという身の上ではなくなったのだろう。




