痛恨
悲しいニュースを知らされるのは、いつも決まって心の準備が全くできていない時だ。その訃報に打ちのめされたのは、翌朝のことだった。
音もなく降り落ちる牡丹みたいな初雪が、ベランダに数センチ分の真っ白な層を形成していた。屋根の端から、今年最初のつららがぶら下がっている。
暖房をつけてから数十秒しか経っていない室内は、手足の指先を無感覚にしてしまうほどの冷え込みよう。
カシスジャムが完成したことをやっとこさ報告しようと、意気揚々電話をかけた僕は、電話口に出た金井さんの奥さんから知らされた予想外の訃報に、文字通り言葉を失った。
「主人はつい先週亡くなったんです。脳卒中でした」
「え……? あ、お悔やみ、申し上げます」
定型的な言葉をひとつだけひねり出した後、馬鹿みたいに押し黙るしかなかった。
一瞬で真っ白になった視界が少しずつ色彩を取り戻していくにつれ、金井さんの眩しい笑顔や、畑で元気に作業する姿が次から次へと脳裏をかすめていく。
およそ死とは縁遠い、快活を絵に描いたような人だった。
(あの底なしに元気だった金井さんが、死ぬ?)
僕の心臓を、得体の知れない何かが絞り上げていく。
彼のことだから、いつまでも元気でいてくれるに違いない。そんな希望的観測にかまけて、ジャムの完成直後に連絡を取らなかったことがどこまでも悔やまれた。
灰色一色の後悔の念の上に、黒一色の痛恨の思いが重ねられ、さらにその上にどす黒い罪の意識が塗り足されていく。気がつくと、僕の心ははみ出んばかりの痛みに覆われていた。
それから二、三やりとりをしただけでも、奥さんが悲しみの淵に沈んでいることは、その声色から十分すぎるほど伝わってきた。




