創作
長年の憑き物が落ちて徐々に溌剌とし始めた僕は、それからの約一ヶ月間、アルバイト先であるレンタルビデオ店と実家をひたすら行き来しながら、時に淡々と、時に食らいつくように小説づくりと対峙した。もちろん、ひとりきりで。
プロットづくりの基本を学ぶため、映画・小説・漫画など、様々なコンテンツのストーリー構造を分解。各作品における登場人物の相関関係や脚本の流れを研究した。
アルバイトの最中は、目の前のタスクを淡々とこなしながら、頭のなかでキャラクター設定に磨きをかけた。
長年にわたって書き溜めてきた膨大なメモを見返し、使えそうなフレーズやアイディアをピックアップ。シーンの順番も組み立てた。
舞台監督になったつもりで、毎日、脳内のキャラクターたちに細かな演技指導を施し、時には彼らの光るアドリブに興奮を覚えながら、各場面をコツコツ、ジリジリと書き上げていった。
その間、これまで僕のことを散々っぱら苦しめてきた奴の声は、ほんの数回程度しか意識の表層へ浮上してこなかった。
(10月25日。早朝。今、俺の膝の上に、完成したばかりの原稿が乗っている。一生にそう何度も味わえない、聖なる瞬間だ)
僕はペンを机の上に置くと、北海道の冷たい空に突き刺さる朝日を拝んだ。べランダの物干し竿に吊るされた洗濯物が、風に小さく揺れている。
先日から出番を迎えた石油ストーブ。炉格子から漂ってくる独特の匂いは、早すぎる秋の終わりを予感させた。




