閃き
その時、視界の中心部を捉えたのは、中空を彷徨い、音もなく湯の上に落ちて、小さな波紋を広げていく可憐な落ち葉だった。その鮮やかなオレンジ色を、僕は呆けながら見つめた。
(落ち葉。葉。言の葉。言葉)
アイディアの源泉にひらり舞い降りた、一枚の言霊。そこから無数の小さな言葉が広がり、波紋のようにどこまでも紡がれていくイメージ。
この世界がそうであったように、そして人類がそうであったように、言葉も大いなる存在によって創造されたものなのだとしたら、最初に創り出されたフレーズは、他ならぬ「創る」に違いない。
(創る……)
原初の言葉は、やがて黒い海のはるか上空に浮かんだイマジネーションの湯船と融合し、ゆったりとした波紋を広げていった。
(創ることは救い……)
その波紋は次第に大きくなっていって、うねりのようなものへと姿を変えていき、それから大きな高波となって湯船の縁を軽々と乗り越えた。
滝のような湯が、上空から手元へと注ぎ落ちてくる。その正体は、無尽蔵な閃きとフレーズだった。
それらはあっという間に僕の両手を満たし、波々と溢れ出て、床へとこぼれ落ちていった。




