表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/76

完成

 気を取り直して、再び試作に集中する。さっきは仕上がりがだいぶ固くなってしまったから、今回はタイマーを五分から三分に短縮。砂糖は今までで一番抑えた分量に調整してみよう。


 メモ帳に正の字をひとつ書き加える。これで数えて十八回目の試作だ。今度こそはちゃんとモノにできるだろうか。


 三分後、タイマーを止め、続いてガス台の火も止める。


 度重なる試作の末に出来上がった大量のジャム瓶をダンボールにしまいながら、鍋の中身が冷めるのを待つこともう数分。


 湯気の収まったジャムをスプーンですくい、とろみ具合を確認してみると、かなり良い塩梅だ。


 唇を火傷しないように注意を払いつつ味見してみる。


「今度こそは、だね」


 これで数えて何度目の試食会だろう。ジャムを口に含み、仔細に味わいや香りを検分する柄ちゃんと颯くん。


「どう?」


 出来上がりに十二分の自信はあるものの、僕はやきもきしながら聞いた。しかし、評価の言葉を待たずとも、ふたりの満足げな表情が全てを物語っていた。


 柄ちゃんが、今日完成したばかりだというラベルを瓶に貼る。


「CASSIS CASSIS CASSIS JAM」。白地に黒の英字が並んだシンプルなデザイン。ゲル化剤、ペクチン、水飴など、小賢しい混ぜものは一切排除して、貴重なボールドウィンをこれでもかと詰め込んだ逸品だからこそのネーミング。「CASSIS CASSIS CASSIS JAM」


 僕と颯くんが同時に静かな歓声を上げると、柄ちゃんは満足げな表情で微笑んでくれた。


 商品が出来上がったのはもちろんのこと、こうして三人揃って待ちに待った完成の瞬間を迎えられることこそが、何よりも尊いのだ。そう考えずにはいられなかった。


 掌に乗せた温かいジャム瓶を天井のライトにかざし、いつまでも眺める。お前に会える日を、四年もの間待ち侘びていたんだよ。


 どれだけ眺めても、瓶のなかに閉じ込められたルビー色の果汁と果肉は僕を虜にし続けた。


 そこには、僕たちが培ってきた自然観、人生観、美学、情熱、信念が、確実に、一滴も余すことなく凝縮されていた。「CASSIS CASSIS CASSIS JAM」は、紛れもなく僕たちそのものだった。


「両親とか、金井さんとか、まずはお世話になった人たちにちゃんと送ってあげなよ。完成しましたって報告してあげて」


「もちろん」


 柄ちゃんにそう言われて、さも当たり前のように返事した僕は、頭上に掲げたジャム瓶をなおも見つめ続けていたのだった。


次回へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ