完成
気を取り直して、再び試作に集中する。さっきは仕上がりがだいぶ固くなってしまったから、今回はタイマーを五分から三分に短縮。砂糖は今までで一番抑えた分量に調整してみよう。
メモ帳に正の字をひとつ書き加える。これで数えて十八回目の試作だ。今度こそはちゃんとモノにできるだろうか。
三分後、タイマーを止め、続いてガス台の火も止める。
度重なる試作の末に出来上がった大量のジャム瓶をダンボールにしまいながら、鍋の中身が冷めるのを待つこともう数分。
湯気の収まったジャムをスプーンですくい、とろみ具合を確認してみると、かなり良い塩梅だ。
唇を火傷しないように注意を払いつつ味見してみる。
「今度こそは、だね」
これで数えて何度目の試食会だろう。ジャムを口に含み、仔細に味わいや香りを検分する柄ちゃんと颯くん。
「どう?」
出来上がりに十二分の自信はあるものの、僕はやきもきしながら聞いた。しかし、評価の言葉を待たずとも、ふたりの満足げな表情が全てを物語っていた。
柄ちゃんが、今日完成したばかりだというラベルを瓶に貼る。
「CASSIS CASSIS CASSIS JAM」。白地に黒の英字が並んだシンプルなデザイン。ゲル化剤、ペクチン、水飴など、小賢しい混ぜものは一切排除して、貴重なボールドウィンをこれでもかと詰め込んだ逸品だからこそのネーミング。「CASSIS CASSIS CASSIS JAM」
僕と颯くんが同時に静かな歓声を上げると、柄ちゃんは満足げな表情で微笑んでくれた。
商品が出来上がったのはもちろんのこと、こうして三人揃って待ちに待った完成の瞬間を迎えられることこそが、何よりも尊いのだ。そう考えずにはいられなかった。
掌に乗せた温かいジャム瓶を天井のライトにかざし、いつまでも眺める。お前に会える日を、四年もの間待ち侘びていたんだよ。
どれだけ眺めても、瓶のなかに閉じ込められたルビー色の果汁と果肉は僕を虜にし続けた。
そこには、僕たちが培ってきた自然観、人生観、美学、情熱、信念が、確実に、一滴も余すことなく凝縮されていた。「CASSIS CASSIS CASSIS JAM」は、紛れもなく僕たちそのものだった。
「両親とか、金井さんとか、まずはお世話になった人たちにちゃんと送ってあげなよ。完成しましたって報告してあげて」
「もちろん」
柄ちゃんにそう言われて、さも当たり前のように返事した僕は、頭上に掲げたジャム瓶をなおも見つめ続けていたのだった。
次回へ続く




